裸眼1.0未満が過去最高に 近視になる本当の理由と対処法

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 近視の拡大が止まらない。平成29年度学校保健統計調査によると裸眼視力1.0未満の割合は、小学生で32.46%、中学生で56.33%と調査開始以来、過去最高となった。大人の近視も多く、40歳以上の42%が近視で、そのうち20人中1人が強度近視との報告もある。日本人の強度近視は途中失明の原因疾患の上位5位以内に常に入っている。

 なぜ近視は急増しているのか? 眼科専門医で「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長に聞いた。

「人がものを認識できるのは、光のおかげです。光線が角膜に入り、瞳孔を通過すると水晶体で焦点を合わせ、目の奥にある網膜に焦点の合った画像が逆さまに映し出されます。その情報は視神経を通じて脳に送られるのです」

 ところが、眼球が楕円形に伸びたまま、戻らなくなる人がいる。この眼球の変形が近視を引き起こす。眼球が伸びると網膜の位置が通常より奥になるため、焦点が網膜の手前で合うことになり、脳に送られる画像もぼやけるのだ。

「近視がひどくなると、網膜も引き伸ばされて薄くなり、網膜が裂けたり、はがれたりする。とくに網膜の中央にあってものを細かく見る黄斑部が傷つくと、失明の恐れがあります」

 では、眼球はなぜ楕円形になるのか? 

 角膜炎を患い、その後、瘢痕や混濁が残って光を通さない角膜白斑になったり、メガネの過矯正で像のボケを生じたりするのもその理由に挙げられる。しかし、多くの人が想像するのは親の遺伝だ。

「“親が近視だから私が近視なのも仕方ない”という人もいますが、必ずしも正しいとは言えません。強度の近視の原因となる遺伝子も発見されていますが、一卵性双生児でも視力は違いますし、両親や祖父母が近視でないのに目が悪い子供たちは増えています。世代間の遺伝子変異はごくわずかですから、近視の激増は環境的要因によるものでしょう」

 長時間の読み書きが問題とは昔からいわれてきたことだ。至近距離でものを見るとき、毛様体が収縮して水晶体は膨らみ、遠くを見るときは毛様体が緩んで水晶体を薄くして、焦点を調節することでピントを合わせる。そうした調節を毎日何千回も繰り返している。

「近視にならない人は眼軸が伸びていないのに対して、近視の人は眼軸が伸びてしまい、それが積み重なって近視化した可能性があります」

 生まれたばかりの赤ちゃんは遠視傾向にあり、眼軸を伸ばすことで正視化する。子供が大人より近視が進むのは、この能力が高い時期に過度に至近距離を見続けるためだ。

■日光が近視を抑制

 しかし、親の視力が良く、本を長時間読む習慣がなくても近視になる人は大勢いる。

「その理由は日光不足にあるという説があります。米国のオハイオ州立大学のムッティ教授らが4000人の子供を10年間調べるなどした結果、外遊び時間が長い子供ほど近視になりにくい、家の中で過ごす時間の長い子ほど近視になりやすいことを報告しています」

 ドイツのチュービンゲン工科大学が、明るさのみが異なる2つのひよこのグループを調べたところ、明かりの強いグループで近視の発生が有意に減少した。ほかの動物を使った実験でも、同様の効果が観測されている。

 なぜ光が近視を抑えるか。有力な仮説は、波長の短い紫の光によって網膜から神経伝達物質のドーパミンが分泌され瞳孔が収縮する。このドーパミンが眼軸の伸びを防ぐという説だ。ひよこの目にドーパミン抑制剤を投入すると、光による近視発生の減少が見られない、との実験結果もある。ちなみに、台湾の小学校では毎日2時間、屋外活動をすることで、2010年以降小学生の近視率が10%以上、下がったと報告されている。

 現在、近視予防にはどんな手段があるのか?

「至近距離を見るときに目の調節を手助けしてくれるMCレンズメガネがあります。岡山大学の実証研究では通常のメガネと比べて15%程度近視抑制効果があったとされています。特殊なコンタクトレンズを就寝前につけることで角膜のカーブを変えて視力を矯正するオルソケラトロジーは子供に高い効果があります」

 海外ではマルチフォーカルソフトコンタクトレンズの近視抑制効果にも注目が集まっている。

「研究が進んでいるのは目の毛様体と調節機能をマヒさせるアトロピンという点眼薬です。100倍に薄めて副作用を抑え、近視抑制を行う研究では60%の近視抑制効果があったとされています」

 眼軸が伸びて近視になった人の眼軸は再び短くはできない。心配な人は定期的に目の検査を受け、眼科医に相談することだ。

関連記事