私は、K先生と鎧兜と私とがその薄暗い空間に溶け込んでいるような不思議な錯覚を覚えていました。何回も目と目が合っていましたが、不安そうにも見えません。それでも、K先生は自分の死期が迫っていることも分かっておられるのだと感じました。「何か、私にできることはありますか?」とたずねると、K先生は「いや……」と少し顔を動かされました。
1時間半ほどたって、私が「よろしければまた来ます。どうぞ呼んで下さい」と伝えると、K先生はにっこりしながら布団の中から手を出されました。私は握手して頭を下げ、立ち上がりました。
帰りの道で、私は考えました。K先生はたくさんの悩みがあったとしても話されなかった。私からもお聞きすることはしなかった。K先生のお気持ちは「自分はここにいて、つらい思いをしている。それを分かってほしい」ということだったのだろうか?
がんと向き合い生きていく