子作り治療 最前線

顕微鏡用いた「低位結紮術」で精子異常男性の6~7割が改善

デスクワークなら翌日から仕事が可能
デスクワークなら翌日から仕事が可能(C)日刊ゲンダイ

 精液検査で精子に異常が見つかると、4割以上は原因不明(特発性)だが、約3割は「精索静脈瘤(りゅう)」によるものだ。

 精巣の静脈が逆流し、ブニュブニュした瘤(こぶ)のようなものができる。一般的には自覚症状はなく、これまでは自費で手術が行われてきた。それが今年4月の診療報酬改定で保険適用になった。独協医科大学埼玉医療センター・リプロダクションセンターの岡田弘教授が言う。

「術式にはいくつか種類がありますが、主流は合併症や再発率が最も低い顕微鏡を用いた『低位結紮(けっさつ)術』です。このたび、精索静脈瘤に対する『顕微鏡下手術』が保険適用になりました。この手術を行うと6~7割の人に精液所見(精子の数や運動率など)の改善が見られます」

 これまでクリニックの日帰り手術では自費で20万円程度かかる施設がほとんどだった。それが健康保険で3割負担なら4万円弱(手術自体の費用)で受けられるようになった。入院(1泊2日)の場合なら、おおよその目安は8万円ほどだ。

 顕微鏡下低位結紮術は、全身麻酔もしくは局所麻酔で行う。そけい部(太ももの付け根)を1~2センチ切開して、精索という膜の中にある精巣静脈のみを結んで結紮切断(縛って間を切る)する。この時、動脈やリンパ管は傷つけないことが大切だ。

 精巣動脈周囲にある細かい静脈も顕微鏡を使って確実に結紮切断することで静脈瘤は消失する。手術時間は1時間程度で、デスクワークなら翌日から仕事が可能。再発率は2%以下という。

「手術を受けてから精液所見が改善するまでには、おおよそ3~6カ月かかる。そのため早く妊娠を望むカップルは、手術よりもART(体外受精や顕微授精)を選択することが多いのですが、精子の状態が悪ければその治療成績も落ちる。ですから、ARTと並行して精索静脈瘤の手術をするのが有効な治療といえます」

 最近分かってきたのは、手術によって精子の「質(DNA断片化率)」が改善されることだ。精液所見よりもずっと早い術後2カ月くらいで改善してくる。ARTをしなくても、手術だけで自然妊娠する人も20%以上いるという。

 また、男性不妊の占める割合は少ないが、比較的見つかりやすい原因に「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」というホルモン分泌異常がある。この場合、不足しているホルモンを週2~3回注射(自己注射可能・健康保険適応)して補充する。精子が改善し始めるのは大体6カ月以降。無精子症の人でも、80%は精子形成が確認できるという。

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