患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

大好きな酒を諦めないために 僕が取ったのは“週1の報酬”

平山瑞穂氏
平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病というと、腹八分目くらいまでしか食べられず、脂っこい食品は極力避けて、アルコールも禁物というイメージが強い。

 だが、365日、しゃくし定規にそれを守らなければ立ち行かないかというと、実はそうでもない。僕自身が身をもってそれを経験している。

 糖尿病治療の過程で重視される数値のひとつに、ヘモグロビンA1cがある。過去1、2カ月間の血糖値の平均値ともいわれるものだが、発症発覚時点で、僕はそれが14を超えていた。健常者は6.2以下とされているので、かなり危機的な状況である。

 当初、2型糖尿病患者として治療を始めた僕は、何よりも食事療法に熱心に取り組み、毎食自ら厳密にカロリー計算をして規定内の熱量に抑え、栄養バランスも考慮しながら理想的な食生活をキープすべく血道を上げた。

 おかげでヘモグロビンA1cも、数カ月のうちに7.0前後まで劇的に降下し、主治医や管理栄養士に激賞された。

 ただし、僕がそれほどまでに熱心に食事療法に励んだのには、理由がある。

 もちろん、症状を改善して合併症を防ぎたかったのは言うまでもないが、それ以上に、週に1度だけ自分に許している飲酒の機会を死守したかったからなのだ。

 アルコール自体が概して高カロリーである上に、酒の席ではついつい食も進み、理想的な食事など望むべくもない。

 でもお酒が大好きな僕にとって、酒席を諦めるのは人生の楽しみの半分を放棄するにも等しかった。

 そうしてときにハメを外したとしても、数値が着々と改善されていくなら、酒席が本質的な問題にはなっていないという理屈が立つ。僕はそれを根拠に、週に1度はカロリー量を気にせず心ゆくまでお酒や料理を楽しむ機会を設けていたというわけだ。

 酒席は、日ごろ禁欲的な食生活を営んでいる自分に対するせめてもの報酬だったのである。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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