Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

東てる美さんTV企画で判明 肺腺がんは早期発見でほぼ治る

東てる美さん
東てる美さん(C)日刊ゲンダイ

「早期発見でラッキーでした」

 周りの人にそんなふうに喜びを語っていると伝えられたのは、女優の東てる美さん(61)です。医療番組の企画で5月に人間ドックを受診。心臓を中心に精密検査を受けたところ、X線検査でたまたま左肺に影が見つかり、その後の精密検査で肺腺がんと判明したといいます。

 病期はステージ1b。腫瘍は3センチほどで、休養して摘出するとか。その後の報道によると、「日常生活で息苦しさや肺の不調を感じることはなかったようで、週に2、3回はフラメンコのレッスンを受けており、体は健康そのもの」と報じられました。

 症状も前触れもなかっただけに、本人は驚いたようですが、東さんは両親をがんで亡くし、酒もたばこもたしなむそうです。それだけに「私もいつかがんになる」と覚悟していたといいますが、症状がない状態で発見された喜びが大きいのでしょう。「今後は、検診の重要性を伝えたい」と語っているそうです。

 がんは大変な病気と思われるかもしれません。がんが重い症状で患者さんや家族を苦しめるのは末期になってからです。東さんのように早期で発見できれば、症状はなくて悪さをしません。ほとんど治ります。

 5年生存率は、肺がん全体でステージ1が約82%で、それが東さんと同じ肺腺がんのステージ1ならさらに良く、約89%です。肺がんは検診の受診率が低く3割ほどで、残念ながら7割は手術ができない状態で見つかりますが、東さんのように症状を頼りにせず、きちんと検診を受けて早期発見できれば、治る可能性が高いのです。

 特に肺腺がんはこのところ増えていて、肺がん全体で男性は4割、女性は7割を占めますが、肺腺がんはX線で見つかりやすく、検診を定期的に受ける価値は十分あります。昨年、肺腺がんであることを公表した歌舞伎役者の中村獅童さん(45)は毎年、人間ドックを受けていることで、「奇跡的といわれるほどの早期発見」だったそうです。手術で完治しています。

■禁煙効果は女性なら11年

 東さんは喫煙者のようですが、肺腺がんは女性ホルモンのひとつ、エストロゲンとの関係が指摘されています。エストロゲンは喫煙との相乗効果で、発がんに関連する遺伝子に作用する可能性があるのです。喫煙習慣のある男性と比べると、喫煙習慣のある女性の方が、より肺腺がんを発症しやすいのはそのため。

 初潮が早いほど、閉経が遅いほど高リスクという研究結果も報告されています。エストロゲンの影響がうかがえますが、禁煙の効果が高いのは女性です。男性喫煙者が、たばこを吸わない人並みにリスクが下がるのは禁煙して21年といわれますが、女性は11年で発がんリスクがリセットされます。

 女性に多い肺腺がんを防ぐには、なるべく早く禁煙して、毎年検診を受けることが大切。東さんも中村さんも治療は手術ですが、放射線の治療効果は手術と同レベル。1回1分ほどの照射で、4回の通院で完治します。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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