がんとは何か

<12>がん細胞はどのように浸潤・転移するのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がん細胞には、「外からの信号を無視して勝手に増殖する」「増殖を抑えるシグナルから逃れる」「無限の増殖をする」「アポトーシス(自死)の回避」「血管新生の形成」など6つほどの特徴があるといわれる。その1つが「浸潤と転移」だ。

 浸潤とはがん細胞が周囲の器官に直接広がっていくこと。転移とはがん細胞が最初に発生した場所から血液やリンパに乗って別の臓器や器官にたどり着き、そこで増えることを言う。

 では、がん細胞はどのようにして浸潤を果たすのか? 最新のがん情報にも詳しい国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「正常な上皮細胞(皮膚や消化管などの粘膜、内外の分泌腺などの総称)はE―カドヘリンというタンパク質によって細胞同士が互いに手を取り合った状態にあります。細胞には上下があり、これを極性と言います。がん細胞はE―カドヘリンに異常をもたらすなどして、相互に固く結合し合っている上皮細胞を、動き回れる細胞へと転換させます。そのことで極性を喪失させ、隣り合った上皮細胞の結合を解体させて、がん細胞を移動させるのです」

 しかもE―カドヘリンは細胞増殖を抑制する働きもある。そのためここに異常が生じるとがん細胞の増殖力がアップする。

 また、上皮細胞の下の方には「基底膜」と「間質」がある。基底膜はコラーゲンなどの線維からなる丈夫な膜で、間質はコラーゲンなどの線維と線維芽細胞、リンパ管、血管などからできている。基底膜と間質を合わせて細胞外マトリックスと呼ぶが、がん細胞はこれも超えていかなければならない。

「がん細胞はメタロプロテアーゼという酵素を放出します。この酵素は上皮細胞の結合を解体させ、細胞外マトリックスを分解する働きがあります」(一石教授)

 こうして血管やリンパ管にたどり着いたがん細胞はその表面にとりつき、その基底膜を分解する。その内側の内皮細胞もメタロプロテアーゼによって分解され、血液の中に入ることができるのだ。

 この脈管系の旅はがん細胞にとって命懸け。成功するのはがん細胞1万個のうちの1個ともいわれている。

 運よくがん細胞にすみやすい場所にたどり着くと、細胞に吸着するタンパク質を分泌してそこに定着。新たなすみかをつくるため浸潤を始める。やがて新天地のがん細胞は急速に成長するために、必要な栄養や酸素を手にするために新生血管を張り巡らせることになる。

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