フルマラソンで風邪リスク増 運動後の免疫力低下に要注意

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(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 ジョギングブームはますます盛り上がりを見せているが、“走った後”に要注意。感染症に弱い状態になっているかもしれない。

「“フルマラソン後は風邪をひきやすくなる”“1週間当たりのランニングの距離が増えるほど風邪をひきやすくなる”。このような報告は以前からありました」

 こう言うのは、順天堂大学医学部循環器内科学講座先任准教授の島田和典医師だ。

 その理由として、免疫力に関係する細胞の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞の活性が、激しい運動後、一時的に低下することは分かっていた。この現象を「オープンウインドウ」と呼ぶ。

 一方で、NK細胞を含むさまざまな免疫細胞を統括し、“免疫の司令塔”的存在の「樹状細胞」が運動とどう関係しているかは不明だった。それを世界で初めて解明したのが、冒頭の島田医師らのグループだ。

 まず行ったのは、運動をすると樹状細胞がどうなるかの解明だ。順天堂大学の運動部の被験者22人を対象に①1回2時間の運動をした場合②2週間継続して運動をした場合――の樹状細胞の活性度を調べた。

 樹状細胞は大きく2つに分かれる。ウイルス感染に対して免疫機能を発揮する「pDC」と、細菌感染に対する「mDC」だ。1回の運動後の樹状細胞の活性(①)は、pDC、mDCともに運動直後、2時間後、14時間後と低下。疲労度と活気度の調査では、運動後に疲労度は増加し、活気度は低下した。

 継続運動後(②)でもやはり、どちらの樹状細胞も活性が低下。活気度は変わらずだったが、疲労度は増加した。

「激しい運動の継続で樹状細胞に“オープンウインドウ”状態が起こり、疲れと免疫に関係があることを、世界で初めて確認できました」(島田医師=以下同)

■乳酸菌に改善効果

 次に行ったのは、どうすればオープンウインドウを避けられるか。実は食品メーカー「キリン」の研究で、2つの樹状細胞を直接活性化させる唯一の乳酸菌(プラズマ乳酸菌)の存在が確認されていた。世界各国で免疫力アップの乳酸菌の研究が行われ、「そういったものはない」という説が有力であったが、それを覆したものだ。

 島田医師はキリンと共同で同大運動部男子学生51人を対象に、プラズマ乳酸菌を摂取した際の効果を検証。26人はプラズマ乳酸菌を、25人はプラセボ(偽)を摂取。結果、運動時にプラズマ乳酸菌を摂取していた群は、pDCがプラセボに対して有意に高値に。mDCはプラズマ乳酸菌群に有意な変化はなかった。

 さらに、プラズマ乳酸菌を摂取していた群では、風邪の「症状なし」が多く、体調が良く、疲労がない人が多かった。

「つまり、激しい運動継続時にプラズマ乳酸菌を摂取すると、樹状細胞の活性が維持され、風邪の症状の累積日数が減少し、体調と疲労が改善することが明らかになったのです」

 世界初の内容を含む今回の研究結果から私たちがチェックすべきなのは、「激しい運動後はインフルエンザや風邪などの感染症にかかるリスクが高くなる。免疫力を下げない生活を意識すべき」ということだ。

「オープンウインドウを起こさない、起こしても幅を狭くする。そのためには、睡眠時間を十分に取る、規則正しい時間に満遍なく栄養素が含まれたカラフルな食事を取ることが大事です」

 日頃、運動不足の人も、子供と休日に走り回って慣れない“運動”をした日には、ぜひ忘れずに。

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