がんとは何か

<14>増殖シグナルがあると伝える"ウソつき”ががんを作る

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(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 肺がん、胃がん、大腸がん……。がんにはさまざまな種類があるが、がん細胞には共通する複数の特徴がある。がん初学者向けの入門書として定評の「ペコリーノ がんの分子生物学第3版」には「増殖シグナルの自律性」「増殖抑制シグナルの回避」「免疫系による破壊からの回避」「無制限増殖能」「浸潤と転移」「血管新生」「細胞死からの回避」……などが挙げられている。こうした特徴を獲得することこそが正常な細胞をがん細胞に変えるポイントとなる。

 そのひとつが自分勝手に増殖する能力だ。正常な細胞は細胞外のシグナルがなければ細胞分裂を行わない。

 たとえば、「隣の細胞が弱ってきた。新しい細胞が必要だ」といったシグナルを受けて初めて細胞分裂の作業に入る。しかし、がん細胞の増殖にはこうした外部からのシグナルは無用だ。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「正常な細胞分裂では、細胞外の増殖因子というカギが、細胞の表面にある受容体と呼ばれるカギ穴に差し込まれることで細胞外のシグナルが細胞内に伝わります。細胞内ではそのシグナルが細胞内シグナル伝達タンパクによって細胞核内の転写因子に伝わり、遺伝子にスイッチが入る。そして細胞分裂に必要なタンパク質が合成され、細胞分裂が行われるのです」

 たとえて言うなら、細胞分裂のプロセスは「増殖因子」「受容体」「細胞内シグナル伝達タンパク」「転写因子」という4人の選手が、細胞分裂というゴール目指して伝言ゲームをしているようなものだ。

 選手は次の選手が抱える「チロシン」という物質をリン酸化することでメッセージを伝える。チロシンとは細胞内でタンパク質を作るためのアミノ酸の一種で、細胞内の化学反応を促し活発化させるホルモンだ。リン酸化とはチロシンにリン酸基が結合することを指す。ちなみにチロシンのリン酸化はシグナル伝達だけでなく、細胞周期や増殖、アポトーシス(自死)などのプロセス調整に重要な役割を果たす。

「正常な細胞では増殖シグナルを受け取ってもそのときだけ増殖するようにスイッチが入り、シグナルがなくなればオフになる。ところが、遺伝子に変異がある選手は、“ウソ”をつく。本当は増殖シグナルなど受け取っていないのに、後続の選手に『増殖シグナルがきたよ』と言い、わざと細胞分裂させるよう仕向けるのです」(一石教授)

 後続の選手はそれがウソだと気付かない。結果、鳴りっぱなしの増殖シグナルに反応して細胞増殖は止まらなくなるのだ。

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