天井から人が覗いている…幽霊が見えやすい病気と脳のクセ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 夏は幽霊の季節。

 怪談噺、肝試し、お化け屋敷など幽霊が大人気だ。背景には科学的でないと思いつつも「幽霊を見た」「見たことはないが存在する」「超常現象はある」と信じる人が少なからずいるからだ。なぜ幽霊や超常現象を信じるのか? それには幽霊が見えやすい病気や脳のクセが関係しているという。

 左に比べて右側の脳が優勢な人は幽霊を見やすく、超常現象を信じやすい。チューリッヒ大学病院神経心理学者・ブルッガー氏の仮説だ。

 目隠しをして真っ直ぐ歩いて左にそれる人、紙片の中央に直線を引くように命じられて中央よりも左寄りに線を引く人、「15と3の真ん中の数」と言われて低めの数を答える人……などは右脳が優勢だと言われる。

 ブルッガー氏は幽霊など超常現象を信じる度合いが強い人と右脳優勢の人の関係性を調べ、右脳が優勢な人ほど、超常現象を信じる傾向が強いことを明らかにした。

 人間の右脳は顔認識や創造的思考や視覚的イメージ、音楽など芸術性に優れ、左脳は数学や論理的思考が秀でている。右脳が優勢な人は意味や関連のない出来事やイメージを結び付けてストーリーを作る傾向にあり、それが超常現象や幽霊の存在を信じる根拠になりえると言う。これは仮説だが、脳のクセが幽霊を見せた、というのはありうることだ。

■脳や目の病気が原因

 認知症の2割を占めるレビー小体型認知症や、パーキンソン病などの脳疾患では、幻視が多い。

 眼科領域ではシャルル・ボネ症候群という病態が有名だ。視力が0・2以下になった人の一部にあらわれるもので、そこには存在していない、模様や人物、風景が見える。スイスの哲学者であったシャルル・ボネの祖父が白内障で視力を失い、その後に訴えた症状をボネが報告。初めてその存在が明らかになった。

「天井から人が覗いている」「ベッドのそばに子供が立っている」

 視力を失いかけると幽霊が見える理由は、脳に送られる視覚神経の信号が大幅に減り、脳が過去に蓄積された画像でそれを補おうとするからだ。

 この病態は白内障や加齢黄斑変性症で視力を失ったり、失いかけた人に多いといわれる。幽霊の像もクリアでハッキリしているのが特徴だ。

■パンに神様の顔が…

 心霊写真で良くみられるのが壁や天井のシミなどが人間の顔や姿に見えるケース。これをパレイドリア現象と呼ぶ。2014年にイグノーベル賞を受賞した「トーストの中に見えるイエス・キリスト像の脳機能イメージング研究」もこの現象を調べたものだ。

 東京家政学院大学の加地雄一准教授らは、166人の健康な大学生を心理テストで「開放性」「誠実性」「外向性」「協調性」「神経症傾向」について評価。ランダムに並んでいる点のパターンを見せ、そこに見える形を報告させ、ペンでその形をなぞるように指示した実験にも参加してもらった。

 結果、166人中128人が人の顔や動物など、ランダムに並ぶ点から意味のある形を認識した。加地准教授が言う。

「パレイドリアは反射的に意味のある形を認識する。ある意味本能的なものです。実験では神経症傾向の高い人や女性の中に多くいました」

 その理由はハッキリしないが、加地准教授は女性は男性よりも体力的に劣るため、森林に潜む捕食者をいち早く察知する必要があったからではないか、と推測する。神経質な人は、感情的な不安定さが意味のあるパターンを認識させやすいのかもしれないという。

 実験では8割がパレイドリア現象を認識した。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というが、パレイドリア現象で幽霊を見る人は予想以上に多いのかもしれない。

■金縛りの正体

 金縛りは心霊現象でなく睡眠サイクルのずれが原因だ。睡眠には脳が休むノンレム睡眠と身体が休むレム睡眠がある。前者の夢はモノクロで後者の夢はカラーでリアル。通常、寝入ばなはノンレム睡眠で、その後レム睡眠に移行する。睡眠中はこれが繰り返される。

 ところが、昼寝をしたときなどは、いきなりレム睡眠になる場合がある。脳が半分起きている状態でリアルな夢を見るため、それが現実に起きているかのように感じる。このとき、恐怖や不安を司る脳の扁桃体が活性化するため、怖い夢を見るのだ。

 しかもレム睡眠中は、体を支える抗重力筋が脱力して体に力が入らない。そのため、体を動かそうとしても動かないと感じるのだ。ちなみに金縛りや幻覚が多く、昼間急な眠気に襲われる人は過眠症の一種、ナルコレプシーの可能性がある。

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