一方、父はというと、そもそも特養を理解していない。「入院」という言葉を使うので、リハビリの病院と思っているフシがある。自分は少し弱っているが、まだまだ健常な社会人(60歳想定)という意識もあるようだ。それを物語る事件が起きた。朝刊で知人の訃報をうっかり読んでしまった父が「葬儀に行く!」と暴れ始めたのだ。ヨチヨチと歩き、たんすからワイシャツを引っ張り出し、息切れしながら喪服を出せと怒鳴る。
「俺が行かなきゃダメなんだ!」と主張するが、歩くのも困難、尿意も制御できず、紙パンツの許容量を超えて漏れることもしばしば。そんな状態で、遠方の会場の葬儀にどうやって出席するというのか。
車いすで連れていけとは言わない。バスと電車に乗ってひとりで行くと言い張り、大興奮状態。しかし、ズボンを自力でははけない。たまりかねた母から、SOSの電話がかかってきたのだ。
実録 父親がボケた