カラオケ療法

<6>「聴覚と視覚の活性化で認知症予防策になっている」

いつも30人ぐらいが出席
いつも30人ぐらいが出席(提供写真)

 老化防止、認知症予防などの高齢者対策としてカラオケを導入している老人施設が増えている。

 8年ほど前からカラオケの効果効能を継続調査している「東北福祉大学(健康科学部)」(宮城県仙台市)や、「鶴見大学(歯学部)」(神奈川県横浜市)の検証成果が著しい結果を生んでいるからだ。

 例えば、「東北福祉大学」による「SRI(問診票による個性や能力を脳科学的に分析)脳番地診断」の結果は、以下の通りだ。

 脳番地とは脳には大きく聴覚、視覚、理解、記憶、運動、伝達、感情、思考の各番地があるが、カラオケ後の診断では「思考系脳番地」「聴覚系脳番地」「運動系脳番地」の機能スコアが平均10ポイントも向上しているという。

 東京都稲城市の郊外にある社会福祉法人「永明会・いなぎ苑」(1995年設立、岩井堅太郎理事長)も、カラオケを早くから導入している老人施設である。

 鉄筋3階建て。広い庭を所有(敷地面積約4500平方メートル)し、特別養護老人ホーム(定員60人)、通所介護サービス(同45人)、認知症通所介護サービス(同12人)などを運営している。

 7月中旬、同施設を訪ねてみた。カラオケは毎週1回。パイプ椅子を並べたホール(写真)で、午後からスタートし、参加者は強制ではなく、いつも30人ぐらいが出席しているという。

 職員から車椅子を押されて参加する人。後方の椅子に座り、眠り込んでいる参加者もいた。

 進行担当の職員が、

「さて今日、1番で歌う人は山田高子さん(仮名)で~す。歌は『天城越え』」

 事前に参加する入居者から、リクエスト曲を聞いているらしい。

 指名されてマイクを握る歌い手は、最初から5人までが80歳前後の女性だった。

 若い時代、随分と歌ったと思われる歌い慣れた人もいたし、逆に、メロディーと関係なく、声を張り上げている女性もいる。

 同老人ホームの世話にボランティアで参加している社会福祉士の香川昇氏が言う。

「認知症が進んでいる入居者も、リクエストのメロディーが流れ、テレビ画面に曲が映った途端に目をカッと開き、しっかり3番まで歌っています。歌い終わると、口をへの字に結んで下を向いています。カラオケはとくに聴覚、視覚の活性化で、認知症予防策になっていますね」

 途中から、参加者たち全員の合唱になり、曲名が「青い山脈」になった。

 永田穂積施設長は、「カラオケは大声で歌うことによって肺活を丈夫にして老人特有の肺炎防止にもなります。運動能力を高めるために、歌いながら振り付けを行うこともあります。認知症が進行している入居者も多いのですが、カラオケはその防止策のひとつとして最高でしょう」と語る。

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