子作り治療 最前線

無精子症でも精巣から精子を直接取り出せば子供はできる

(写真はイメージ)
(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 射精した精液中に一匹も精子が見当たらない「無精子症」には、「閉塞性」(全体の2割)と「非閉塞性」(同8割)の2種類がある。

 前回紹介したように、精巣で精子は作られているが、精子の通り道(精路)が閉塞している閉塞性無精子症の治療では、手術で精路をつなげる「精路再建術」と、精巣から精子を採取する「TESE(精巣精子採取術)による顕微授精」という方法がある。

 では、精路には問題はないが精巣の精子を作る機能に問題がある「非閉塞性無精子症」の場合、どのような不妊治療が行われるのか。

 独協医科大学埼玉医療センター・リプロダクションセンターの岡田弘教授が言う。

「非閉塞性無精子症では、TESEを行っても精子が見つかる可能性が低く、これまで自分の子供を持つことは難しかった。しかし、その難題に可能性をもたらしたのが、精巣から手術用顕微鏡下で精子を取り出す『MD―TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)』という最先端の治療法です」

 同院がこれまで実施してきたMD―TESEの累積症例数は2800例以上で、国内最多。従来のTESEで「精子がない」と言われた人でも、40%以上の確率で精子が見つかるという。

 この治療法によって、原因不明の特発性造精機能障害をはじめ、先天性疾患のクラインフェルター症候群、抗がん剤療法による無精子症の人なども、子供を作る希望が持てるようになったのだ。

 手術は基本的に局所麻酔で陰のうを切開し、精巣を一時的に血管がつながった状態で体外に取り出して行う。

「精巣を覆っている白膜を切開して、精子を形成する精細管を手術用顕微鏡(倍率5~40倍)を使ってつぶさに観察します。精子がいそうな精細管は『太い、白濁、蛇行している』という特徴があるので、それを特定して数十~100ミリグラム程度採取するのです」

 精細管を採取したら、手術室内ですぐに精子の有無の確認作業に入る。

 観察用顕微鏡(倍率100~400倍)をのぞきながら精細管を刻み、その内容物の中から見つけ出すのは胚培養士が担当する。精子が見つかれば、顕微授精のために凍結保存する。

 手術時間は30分~2時間程度。費用は入院(1泊2日)含め、40万~50万円ほどだ。

「また、当院では採卵に合わせてMD―TESEを行い、凍結せずに新鮮な精子で顕微授精する『fresh―TESE―ICSI』も行っています。いずれも高度な最先端治療なので、実施する施設は限られています」

関連記事