意外に多い人獣共通感染症 犬猫に噛まれたらどうすべき?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 犬好き猫好きなら飼い主がいる、いないにかかわらず、見かけた犬や猫を抱っこして可愛がる。その癒やしに大満足の人も多いだろうが、それと引き換えに噛まれたり爪でひっかかれるリスクを負うことを忘れてはいけない。下手をすると思わぬ病気をもらうことにもなりかねない。

■ペットの歯はさまざまな感染症の温床

 佐藤孝雄さん(仮名、66歳)は先日、飼っていた室内犬に右手の親指と左ひざを噛まれた。しばらく様子を見ていたが、傷口周辺がみるみる腫れあがり、強い痛みに襲われた。結局、近くの整形外科で傷口を開き、抗生物質の投与で事なきを得たが、医師からは「ペットから受けた傷を甘く見ちゃダメ。傷を負ったらすぐに病院に来てください」と言われた。「みずい整形外科」(東京・祐天寺)の水井睦院長が言う。

「犬や猫の歯は一般の人が考えている以上に不潔で、さまざまな感染症の温床になっています。動物に噛まれた傷を咬創と言いますが、小さな咬創であっても傷が深いことが多い。私の患者さんの中には噛まれた歯が小指の骨まで達して髄膜炎を発症。予後が悪くて指を切断した人もいます」

 ペットの口の中には細菌がうじゃうじゃいて歯周病は獣医師の間でも問題になっている。犬は8割近くが歯周病予備群という報告もある。そもそも動物から人間に感染する「人獣共通感染症」は約200種類ほどあり、日本では約20種類が存在するといわれる。

 注意したいのは「飼い犬や飼い猫であればワクチンを打っているから安全」という思い込み。確かに狂犬病など一部の重篤な病気に対する予防ワクチンは打っているかもしれないが、思わぬ病原菌を持っていないとも限らない。

 では、犬や猫に噛まれたり、ひっかかれたりしたときはどうすればいいのか。

「傷口をせっけんと流水で、傷の周りに付着した動物の唾液をしっかり洗い流すことです。清潔なガーゼを当てて包帯を巻く。そして必ず整形外科か皮膚科などの医療機関で診てもらうことです」(水井院長)

■狂犬病やマダニにも要注意

 犬で気になるのは狂犬病だ。日本では61年以上発症例はないが、発症すればほぼ100%亡くなる怖い病気。しかも、狂犬病ウイルスは犬だけでなくキツネ、アライグマ、コウモリからも感染し、世界中で毎年5万人近くが亡くなっている。海外では不用意に犬や野生動物に近づかないことだ。日本では予防ワクチンの義務化や防疫体制のおかげで幸い発症例がないものの、今後もゼロのままでいけるとは限らない。

 北海道の港湾で外国船の犬の不法上陸が多いことから北からの狂犬病の侵入や、輸入時に検疫拘留のない小動物からの侵入も懸念される。

 東京大学の研究チームは狂犬病のワクチン接種を現行の1年から2~3年に1度でもいいと提言しているが、ワクチン接種そのものを不要といっているわけではない。犬、猫に共通の人獣共通感染症であるカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症は、噛まれたり、ひっかかれることによって感染し、発熱、下痢、全身倦怠感、敗血症などを引き起こす。

 パスツレラ症はパスツレラ菌の感染により発症する病気で、ひっかき傷や噛み傷が化膿して、呼吸器疾患や骨髄炎、外耳炎などのほか、敗血症、髄膜炎などを発症することがある。

「猫ひっかき傷」として知られるバルトネラ病は、バルトネラ菌を持つノミの吸血によって猫や犬に感染。その猫や犬によるひっかき傷や噛み傷から人に感染する。感染しても猫や犬は無症状だが、人は傷口のほか、リンパ節が腫れて痛みを伴い、数週間から数カ月持続する。まれに脳炎、骨溶解などを発症する。

 しかし、今後とくに注意したいのは「重症熱性血小板減少症候群」(SFTS)だ。「浦安中央動物病院」(千葉・浦安市)の周藤明美副院長が言う。

「SFTSは、ウイルスを有するマダニ(写真はフタトゲチマダニ=国立感染症研究所提供)に噛まれることで感染するウイルス疾患で、人や、野生動物、犬猫も感染します。病気を防ぐにはマダニに噛まれないことが大切で、草むらに入る犬や、外に行く猫が感染したり、病気を伝搬しないよう予防することが重要です」

 一昨年の夏、西日本の50代女性がぐったりしている猫を動物病院へ運ぶ途中に手を噛まれ、病気を発症、10日後に死亡した。根本的な治療法はない。国立感染症研究所によると6月27日までに国内で確認されている患者数は354人。うち62人が死亡した。今年は35件の届け出があり、1件の死亡が報告されている。

「いまのところ西日本(宮崎、鹿児島、高知、山口など)を中心に23県から報告されていますが、異常気象が続いていることからマダニがさらに北上するのではないか、と警戒する声もあるのです」(周藤副院長)

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