炎症性腸疾患が急増中 早期に発見するための2つのポイント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 粘液の混ざる血便(粘血便)、下痢、腹痛、腹部不快感、倦怠感などが繰り返し起こるようなら、炎症性腸疾患かもしれない。北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター長の日比紀文医師に聞いた。

 炎症性腸疾患は腸管に繰り返し炎症を起こす疾患の総称。主にクローン病と潰瘍性大腸炎だ。

「患者数は急激に増加しており、平成25年度末時点で合計約21万人。かつては“非常にまれ”という認識でしたが、日常診療でも遭遇する疾患になり、希少疾患とは言えなくなりました」

 ところが、一般的には炎症性腸疾患についてまだ知られていない。下痢や腹痛などはさまざまな消化器疾患で見られるため、専門医ですら感染症や過敏性腸症候群の下痢型と間違えるケースもある。患者自身が「腹痛で病院に行くほどではない」などと考え、受診しないことも珍しくない。

「大腸内視鏡検査で腸内をチェックすると、炎症性腸疾患の特徴的な所見が認められるため、確定診断に至ります」

 もし粘血便や腹痛を頻発するようなら、病院で一度検査を受けるべき。なぜなら近年、炎症性腸疾患の治療の進歩が著しいからだ。

「炎症性腸疾患は難治性疾患で、治療法が少なく治らないとされてきました。腹痛や下痢などで欠勤の割合が非患者より有意に高く、患者のキャリアプランや教育プランに影響を及ぼす可能性があった。しかし2000年以降の治療法の進歩で、炎症性腸疾患は難治性疾患ではなくなりつつあります」

 炎症を抑える治療を速やかに始めれば、比較的短い期間で寛解(症状が一時的または継続的に治ったようになる)に至り、長期間維持できるようになったのだ。

 炎症性腸疾患は、遺伝的素因、腸内細菌、環境因子などが原因で腸管粘膜に免疫異常が起こり、再燃(寛解した後に炎症再発)や増悪(症状悪化)に至る。

■2000年以降は治療が大きく進歩

 以前の治療の目標は炎症症状を抑制することで、成果はあまり得られなかった。ところが00年以降、免疫抑制主体の治療に変わり、前述のように、難治性疾患ではなくなった。炎症が完全に抑えられ、無症状となることも多くなった。

「炎症性腸疾患は、細菌やウイルスなどに刺激されて免疫反応が働き、炎症が起こると考えられています。そして腸のバリアーが破れ、炎症がますます起こり、免疫担当細胞から炎症性の物質が産生され、悪循環に至る。これを止めるには、一つの炎症性物質を抑制すればいい。00年以降、TNFαという物質を抑制する治療法が画期的な効果を発揮し、注目されるようになりました」

 TNFαなどの炎症物質を抑制する薬(生物学的製剤)を含め、炎症性腸疾患の新薬は00~17年に6種類登場。今年は2つの薬が承認される見通しだ。

 これらの薬によって「炎症性腸疾患であっても、キャリアプランや教育プランに影響を及ぼさずに済む」ことが可能になったのだが、残念ながら完治するわけではない。

「薬をやめると再燃するリスクが高くなることはわかっています。量を減らすなどは場合によっては可能ですが、基本的にはずっと飲み続けることになります」

 しかしそれでも、治療が大きく前進したことは確か。私たちが知っておくべきなのは、まずは早期発見・早期治療につながる症状を見逃さない、ということだ。

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