患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

病院に提出してきた完璧な食事記録はすべて捏造したもの

平山瑞穂さん
平山瑞穂さん(C)日刊ゲンダイ

 糖尿病患者の多くは、病院で管理栄養士さんによる食事指導を受けているだろう。事細かに記録した診察前日の食事内容から熱量や栄養バランスの良し悪しをコメントしてもらうというものだ。

 1型患者に食事療法はほとんど関係がないはずなのだが、診察を受けるための流れの一環として、僕もこれを避けることができない。

 そして僕は毎回、「カロリー、栄養バランス共に申し分ありません」との評価を受けている。しかし白状すると、過去十数年に提出した僕の食事記録は、ほとんどすべて捏造である。

 僕は食事療法についてほぼ完璧に理解している。だからこそ、理想的な食事内容を難なく捏造できるのだ。逆に言えば、正直に申告した場合、どこにどんなダメ出しをされるかまで正確に予測できてしまう。それがわかっていながら愚直に指摘を受けるのもどうかと思うのだ。

 しかしそれは、僕が野放図な暴飲暴食を毎日しているという意味ではない。食事療法に励んでいた時期に身についた「感覚」が今なお健在なので、たいていの場合、管理栄養士さんのお眼鏡にかなうバランスの取れた食生活を、おおむね守っていると思う。ただし、診察の前日にもそうした食事を必ずしているとは限らない。飲みの約束が入っている場合もある。その時の食事内容をバカ正直に申告したら、いったいどんな厳しい小言を頂戴することか。

 食事指導のキモは、「適正なカロリー量や栄養バランスというものを、患者が理解しているかどうか」を確かめることにある。

 僕が提出する優等生的な食事記録は、「はい、私はそれを十全に理解しています」と管理栄養士さんに伝える役割を、少なくとも果たしている。そう思えば、毎回嘘をつく行為にも気がとがめなくなる。

 もっとも、これはあくまで上級者向けの方策だ。理解がおぼつかない人なら正直に申告して素直に指導を受けたほうがいいだろう。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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