ゲノムが世界を変える

趣味で始める人が急増中 ゲノム編集もDIYの時代に

(写真はイメージ)
(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 ネット上には、さまざまなクリスパーの実験キットが売られています。

 中でも「Addgene」というアメリカのNGO団体が、豊富なラインアップを用意しています。値段はCas9(DNA切断酵素)が65ドル、動物や細菌の遺伝子をターゲットとしたCRISPRシステム(ガイドRNA付きCRISPR)も65ドル、などとなっています。

「DIY」をうたったキットを販売するスタートアップもあります。試薬のほか、ガラス皿や試験管、プラスチック容器、マニュアルなどがセットになって、159ドルなり。ほかに実体顕微鏡と、細胞を扱うためのマイクロマニピュレーターが必要です。新品は合わせて100万円以上もしますが、中古なら数万円から十数万円で揃います。

 クリスパーは巨大な利益を生み出す可能性を秘めているため、まだ激しい特許紛争が続いています。誰の権利になるにせよ、クリスパーを使ったゲノム編集で生まれた家畜や作物、医薬品などには、将来高い特許料が課せられるかもしれません。

 しかし、研究目的で使う限りは、特許料は発生しません。そのためアメリカやカナダでは、自宅のガレージを実験室に改装して、趣味でゲノム編集を始める人が急増中です。

「バイオハッカー」という言葉も生まれました。もともとハッカーは、趣味でコンピューターを改造し、仲間内で自慢し合うのが好きな人たちのことを指します。バイオハッカーたちも、遊びで生物のゲノムを改造しようとしているわけです。改造した生物を持ち寄って、オフ会で盛り上がる日も、そう遠くないでしょう。

 また優秀なバイオハッカーの中には、その腕前を見込まれて、大企業や大学から共同研究を申し込まれたり、好条件で引き抜かれたりする人も出始めています。

 中国でも、一獲千金を目指す若者の間で広まりつつあります。とくに世界最大のデジタル産業都市である深圳が、いまやゲノム編集の中心地になりつつあります。欧米や日本と比べて、知的財産に対する管理がかなり緩いのはご存じのとおり。やったもの勝ちの国民性も手伝って、イケイケ状態とか。

 しかし、見方を変えると、ゲノム編集は完全に野放し状態です。それが世界にどんな影響をもたらすのかは未知数です。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

関連記事