Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

死亡率が低い女医の患者 その対応力は男性医師も学ぶべき

女性は説明が丁寧
女性は説明が丁寧(C)PIXTA

 女性をターゲットのひとつにした東京医大の“受験差別”が問題になっています。大学側は得点操作の理由として、女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあるということを挙げているようです。戦力確保を狙うなら、私は女医をそろえる方がよりよい医療を提供できると思います。

 女性医師の実力を端的に示しているのが、米ハーバード大公衆衛生大学院の研究です。研究グループは2011~14年の間に米国の急性期病院に入院した65歳以上の高齢者約130万人を分析。「入院から30日以内の死亡率」「再入院率」などの項目で比較したところ、女性は男性に比べて「30日以内の死亡率」は0.4%、「再入院率」は0.6%低いことが明らかになったのです。

 この研究が行われた背景が、重要です。実は当時の米国の医療には、性差にともなうバイアスが生じていて、病院は病院で「重症な患者は、女性には難しいだろうから、男性に担当させよう」としたり、患者は患者で「女性は不安だから、男性に診てもらいたい」といったことがありました。はたして、医師の力量は男女で違うのか。それをきちんと調べる目的で始まったのが、米ハーバード大の研究です。

 事前の予測では、「性差なし」とみられていましたが、結果は紹介した通り。女性医師の方が、男性より治療結果が上回っていたのです。

 この研究結果が見逃せないのは、男性医師と女性医師で担当している患者の重症度を同レベルにそろえていること。調査の信頼性が、きわめて高いのです。

 私の部下は、およそ3分の1が女性。放射線治療分野に特化して、男女の実力を比べた調査はありませんが、みんなとても優秀です。万が一、私が患者として放射線治療を託すなら、個人的に女医に診てほしい。正直、そう思います。

■ガイドラインの説明ならAIで十分

 では、なぜ男女の医師で治療結果が変わるのでしょうか。がんはもちろん、いろいろな病気で研究結果にもとづいたガイドラインの作成が進んでいます。どこにいても、同じ状態の患者なら、同じ治療が受けられるようにするためです。そうすると、男女で差はないはずですが、違っていました。

 その差は、患者に寄り添ったコミュニケーションを取れるかどうか。そこが大きな違いだと思います。

 たとえば、肺がん検診で早期の肺がんが見つかったとします。早期なら手術か放射線でほぼ治ります。その2つの治療法は、肺がんの診療ガイドラインにも書かれていますが、それを杓子定規に説明しがちなのが男性医師で、「つらいですよね」「仕事も心配ですよね」などとショックを受けている患者の立場を考えながら、説明するのが女性医師です。

 今やAI(人工知能)の胃がん診断率は9割。杓子定規な診断や説明ならAIで十分でしょう。そういう時代になりつつあります。しかし、患者に寄り添う説明は、AIにはできません。それができるのが女性医師です。男性医師も患者に寄り添う対応が求められていると思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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