悪夢の東京五輪 サマータイム導入で急上昇する健康リスク

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 自民党内で五輪期間中の実施が検討されているサマータイム。世耕弘成経産相は10日、サマータイム導入の可否について「経産省は1999年に一定の省エネ効果があると試算した」などと語ったが、問題はそんなことじゃない。国民の健康リスクだ。

 サマータイム導入の目的は、時計の針を1~2時間進めて競技開始時間を比較的涼しい朝にずらすこと。しかし、「生活時間帯が1~2時間早まるだけ」などと甘くみてはいけない。2012年から17年までサマータイムを実施し、出勤時間を30分早めた奈良県の前例がある。

「実施期間中、職員は8時から出勤でした。中には7時から出勤していた人もいましたが、空調が8時45分からしか使えなかった。暑い中、体調を崩して倒れる人もいて、特に、障害者枠で採用された職員は苦労したそうです。職員の不満も多く、結局やめました」(奈良県職員労組)

■睡眠の専門家は「百害あって一利なし」

 つまり、サマータイムは「奈良判定」では完全にアウトということ。安倍首相は自民党内に検討の指示を出し、やる気マンマンだが、日本睡眠学会理事の神山潤氏は「まったくナンセンスです」と言い、こう警鐘を鳴らす。

「個人差はありますが、人の体内時計は新しい時間に慣れるまで数週間かかるといわれています。生活時間帯を急に1、2時間早めろと言われても、すぐには順応できないので、心身に急激なストレスがかかる。加えて、心配なのは睡眠障害。睡眠時間が短いと肥満につながる恐れもあり、ストレスがかかると心筋梗塞や生活習慣病の発症リスクが高まります。睡眠不足で脳の前頭前野の機能が低下すると、判断力が鈍るので、仕事の効率も落ちます。サマータイムは、健康を害する危険因子を増やす政策に他なりません」

 生体リズムの異常と睡眠障害を研究している本間研一北海道大名誉教授も、サマータイムは「百害あって一利なし」と言う。

「国際学会では、サマータイムを導入している欧米の学者が、先進国の中で同制度を導入していない日本を『賢い』と評価しているほどです。それくらいに評判の悪い制度なのです」(本間教授)

 暑さに加えて、眠気にストレス――。五輪のツケを負わされる国民はたまったもんじゃない。