実録 父親がボケた

<16>施設の部屋の掃除がずさん…汚していたのは父だった

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 今年3月末。ようやく父が特養に入所した。

 新築なので、どことなく建材のニオイも残っている。でも糞尿のニオイよりはましだ。入所者はまだ揃わず、活気はない。介護士はいるものの、体制はまだ完璧ではない。部屋の掃除も行き届いていない……と思っていたのだが、実は違っていた。

 部屋にはポータブルトイレが置かれており、なぜかトイレットペーパーやティッシュがちぎられ、山のように積んである。紙縒りを細かくちぎったようなゴミは、部屋の床に無数に散っている。清掃員はちゃんと掃除してくれていたが、父自身が汚していたと判明。

 謎の行動はまだある。携帯ラジオのイヤホンコードが1センチ幅に切り刻まれ、ベッドの上に無残に散っていた。なんなの、このちぎり癖は? 施設にいることを理解できず、心の叫びを表現してみた新種のアート? 

 もちろん父に理由を聞いてもわからない。目くじら立てても仕方ない。掃除すれば済む話だ。心は広く、部屋は清潔に。クイックルワイパーを部屋に備えつけることにした。

 母は2~3日に1度、私は10日に2度の割合で施設を訪れる。最初は、父が慣れるまで頻繁に行こうと決めた。母の友人から聞いた話では「3カ月が勝負」だそう。3カ月いれば、家だと思うようになる、それまでの辛抱だという。心強い。

 ただし、ちょっと不便な場所にある。母は自転車とバスで通うが、本数が少なく時間通りに来ない赤字路線だ。バス停で40分も待ったことも。これが母の気持ちをそいでしまう。

 私は電車とバスで片道1時間半。自分が生まれ育った地なので、ちょっと郷愁・旅気分。面倒くさいが苦ではない。

 施設に行って何をするかというと、歩行訓練と手足のマッサージ、ひげそりや歯磨きのケア、トイレ介助に紙パンツ交換。差し入れの果物や甘味を食べさせることもある。新聞や雑誌も持参するが、父が記事の内容を把握できているかどうかは微妙だ。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

関連記事