ゲノムが世界を変える

応用の幅が広がったゲノム編集が食卓を変える日も近い?

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 このウイルスは、感染する際に、ブタの気管や肺の細胞表面に突き出ている、ある種のタンパク質を足掛かりにして細胞内に侵入します。そこでアメリカの研究チームが、ゲノム編集によって、このタンパク質を作らないブタを開発したところ、ウイルスは細胞に付着できず、感染しないことが確かめられたのです。

 ヒトの受精卵の段階で遺伝子を改良する「デザイナーベイビー」の実現が話題になっていますが、この研究では、期待通りの性質を持った「デザイナーピッグ」は、すでに実用化されつつある、というわけです。

 日本では、筋肉量を増やした「マッスル鯛」が話題になっています。動物にとって筋肉は必要不可欠ですが、増えすぎるとエネルギーの消費も増えるため、自然界では逆に不利になります。筋肉が増えすぎるのを抑えるのが「ミオスタチン」という酵素です。近畿大学の研究チームは、鯛のミオスタチンの遺伝子をノックアウトすることにより、通常の2倍の筋肉量を持つマッスル鯛を生み出すことを目指しているそうだ。

 ほかにも穀物の収量を増やしたり、病気に強い柑橘類を開発したりと、農作物や家畜、魚などで、成功例が多数報告されています。ゲノム編集で生まれたそれらの食物が、われわれの食卓に上がるのも、そう遠くなさそうです。

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永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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