骨粗鬆症の骨折「コルセットつけて安静」が寝たきりを招く

コルセットで安静 (写真はイメージ)
コルセットで安静 (写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 老親が骨折し「コルセットをつけて安静に」と医師に言われた――。この場合、別の治療法を考えた方がいいかもしれない。東海大学医学部付属八王子病院整形外科の山本至宏医長に聞いた。

 高齢者の骨折原因のほとんどは骨粗鬆症である。最も多い部位が椎体(脊椎)で、次に大腿骨近位部(股関節)。

 この2つは生命に関わる重篤な骨折だが、大腿骨近位部の治療は手術が主になり、一方、医学的に「骨粗鬆症性椎体骨折」と呼ぶ椎体の骨折は、神経症状がある場合を除き、ほとんどが安静や装具による保存的治療だ。

「しかし、骨粗鬆症性椎体骨折の保存的治療を支持するデータはありません。むしろ、骨折が治る機能が停止する偽関節や骨折の進行のリスクを高めます」

 骨折が進行すると、背中が丸くなる脊柱後弯変形に至り、腰や背中の痛みが生じる。体が前かがみになり、呼吸機能障害、胃食道逆流症などの内科的疾患を合併する。

「患者の日常生活動作の障害や生活の質の低下を招き、寝たきりになる可能性が高くなります」

■望ましいのは速やかな経皮的椎体形成術

 77歳の女性は転倒し、近くの医院で骨粗鬆症性椎体骨折と診断され、保存的治療となった。ところが翌月には両大腿部が痛み、歩行困難に。検査の結果、体を支える機能の前方支柱が破綻し、骨折が脊柱管に及び、神経の圧迫が確認された。前方支柱を再建する人工椎体置換術が行われたが、手術時間は5時間。出血量もかなりあった。

「この女性はうまくいったものの、人工椎体置換術のような高侵襲な手術は、高齢者では全例に適応できません。そこで保存的治療より効果があり、少しでも低侵襲な手術として積極的に行っているのが、経皮的椎体形成術(BKP)です」

 これは骨折した椎体に骨セメントを入れて固め、痛みを取る治療法。背中側に5ミリほどの穴を2カ所開けてバルーンを挿入し、バルーンを拡張させて椎体を骨折前の形に近づける。バルーンを除去し、バルーンでできた空洞に骨セメントを充填する。手術の傷は小さく、出血量はごくわずか。

「脊柱後弯変形が驚くほど低侵襲に矯正され、痛みを取る効果は大きい。手術時間は平均30分で、術後は全身麻酔から覚めた後、コルセットを装着してトイレまで自力歩行が可能です。入院期間は4~5日です」

 BKPの対象は、①骨粗鬆症性椎体骨折と診断され②十分な保存的治療で痛みが改善されない症例。低侵襲で効果が高く、重篤な副作用がないことから、山本医長らは診断がつき次第、患者や家族に十分に説明をした上で、可及的速やかにBKPを行っている。

「BKPと保存的治療の効果と安全性に関する比較試験では、BKP群は保存的治療群よりも早期の除痛効果が高く、その効果は試験観察期間の2年間維持されました。背部機能やQOL(生活の質)も、BKP群は保存的治療群より改善。また、米国での試験では、BKP群は保存的治療群より死亡率は低く、病的状態も低かったという報告もあります」

 山本医長は保存的治療で偽関節が生じた患者にもBKPを実施。変形は元に戻らないが、腰痛は軽減し、自力歩行で帰宅できるようになった。

「ただし、BKPは骨折に対する治療であり、骨粗鬆症の治療ではありません。骨粗鬆症の薬物治療は必須です」

 BKPは保険適用。

■骨粗鬆症とは

 加齢で増える病気のひとつが、骨密度低下で骨がスカスカになる骨粗鬆症だ。世間で認知されている以上に重大病で、治療せずにいると、やがて寝たきりになる可能性がある。平均寿命が短い。

関連記事