がんと向き合い生きていく

妻を亡くした知人は「闘わない」と決めていたのだろうか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私は考えました。

 奥さまのUさんががんと闘っている間、Mさんは、ずっと傍らで一緒だった。Uさんがどんどん悪化していく状態を見つめながら、耐え難い精神的な苦痛があったのではないだろうか。もしかして、あの頃に「がんとは闘わない。妻と同じような闘いはしない」と決心されたのではないか? そして、食べ物をのみ込めなくなった時、今度は自分ががんになったことに気づいていたのではないだろうか?

 Mさんは水分しか飲めなくなり、近くの晩酌屋にも通えなくなり、日に日に体力がなくなり、それでも病院に行こうとはしなかった。その自分をどう見つめて過ごしたのだろうか? きっと孤独に耐えた毎日だっただろう。そして、どうにもならなくなってから「佐々木に連絡してくれ」と口にしたのだ。

 この私の想像を兄Oさんに話してみました。Oさんは「自分もそうだろうと思った。弟は、どうにもならなくなるまで耐えていたんだろう。その精神力は並のものではない」と、うなずかれていました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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