ただ、この方法はがんには使えそうにありません。がんも遺伝子の異常によって生じる病気ですが、根本的な治療のためにはすべてのがん細胞の遺伝子を編集する必要があるからです。一部だけでは再発してしまいます。
そこで注目を集めているのがCAR―Tキメラ抗原受容体(T細胞)と呼ばれる方法です。T細胞は免疫細胞の一種で、外敵に対して強い殺傷力を発揮します。しかしがん細胞を外敵と見なすのが苦手。そこで患者から採ったT細胞に、がん細胞のみを認識するようなゲノム編集を施し、もとの患者に戻すのです。するとがん細胞だけを選んで攻撃してくれます。しかも改良T細胞は体内に定着し、増殖することもできるので、継続的にがん細胞を監視し、再発すれば自動的に攻撃を繰り返します。
すでにアメリカなどで承認され、治療に使われています。患者1人当たり日本円で5000万円もかかるのがネックになっていますが、もっと安くできる方法が世界中で研究されています。将来的には、手術や抗がん剤に取って代わる治療になるかもしれません。
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永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。