患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

原因不明の高血糖状態…深夜の微熱の正体は肺結核だった

平山瑞穂さん
平山瑞穂さん(C)日刊ゲンダイ

 眼底出血による失明、神経障害による足の壊死と切断、糖尿病性腎症で人工透析――。いずれも糖尿病の合併症をこじらせた場合の最悪のシナリオである。糖尿病は、それ自体よりもむしろ合併症が恐ろしい病気だ。

 僕はここ10年ほど、ヘモグロビンA1cが6.0前後と健常者並みの状態を保っており、今のところ合併症の兆候は見られない。でも、だからといってあぐらをかいていられるわけでもない。

 3年前、原因不明の高血糖状態や深夜の微熱が続いた。病院に行っても、通り一遍の血液検査などでは特に異常が見つからず、「自律神経の失調」で片づけられてしまった。納得できなかった僕は食い下がってさらに検査を重ねてもらう一方、人間ドックにもかかったのだが、そこで受けた胸部CTスキャンの結果、肺結核の疑いがあると指摘された。

 肺結核! 途端に頭の中に、高原のサナトリウムでセキに悩まされる青年の姿が浮かんできた。堀辰雄の小説の世界だ。もう、とうになりをひそめた病気だと思っていたのに、まさかこの自分がそれにかかるとは……。

 もっとも僕はかなり初期の段階だったようで、セキも出ていなかったし、そのおかげでなかなか菌を検出することができず、かえって苦労させられた。死ぬほど苦しい気管支鏡検査(胃カメラのようなものを気道から肺に入れる)を経てようやく、肺結核との確定診断が下された。

 幸いに排菌(菌を排出すること)はしていなかったので隔離病棟行きは免れ、9カ月間の投薬のみで治療が完了したのだが、今なお経過観察中の身ではある。

 日本において結核というのは、実は今でも「現在進行形の病気」らしい。ただ昔より衛生状態・栄養状態が格段に良くなっているので、仮に感染していても発症には至らないケースが大半なのだそうだ。

 糖尿病患者である僕は、免疫機能が弱まっている。そのせいで、普通ならはねのけられたはずの菌を、どこかでもらい受けてしまっていたのである。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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