Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

手術が翁長氏の死期早めたか…膵臓がんこそ治療選択が重要

膵臓がんで亡くなった翁長雄志知事
膵臓がんで亡くなった翁長雄志知事(C)共同通信社

 沖縄が、泣いています。膵臓がんで亡くなった沖縄県知事の翁長雄志さん(享年67)の告別式が13日に営まれ、約4500人が参列したそうです。完売した著作もあるそうです。

 翁長さんが、膵臓がんを公表したのは今年5月15日。その1カ月ほど前に膵臓に2~3センチの腫瘍が見つかり、県内の病院で切除手術を受け、退院したその日、県庁で記者会見されました。

「再発や転移を抑える治療を受けながら、12月まで任期を全うする」と公務に強い意欲を示していました。その言葉通り、最期まで普天間基地移設反対に人生をかけていた姿が印象的です。

「手術が成功したのに、なぜこんなに早く」

 そう思われた人は少なくないでしょう。報道によると、膵臓がんが肝臓に転移し、肝機能が低下。今月7日から意識が混濁していたそうです。意識の混濁は、恐らく肝不全による肝性脳症などが原因と思われます。

 結果論ですが、開腹手術が、死期を早めたのではないか。私は、そう思います。

 膵臓がんは、早期発見されると、手術が第一。教科書的には、それがセオリーです。患者さんは、そう説明されます。その説明は、決して間違いではありませんが、手術が死期を早めたと思えるのは、なぜか。理由を説明しましょう。

 診断時点では、肝転移ははっきりしなかったはずですが、ミクロの世界では肝転移があったはず。1ミリの腫瘍は100万個のがん細胞からなります。それが、診断できるのは1センチ程度になってからなので、画像検査で見つけられないような肝転移があったとしても不思議ではありません。

 その根拠の一つが、術後の痩せられた姿。3年前、女優の川島なお美さん(享年54)は、胆管がんで亡くなる直前の記者会見で、激ヤセぶりが話題になりました。2人に共通する激ヤセの背景にあるのが、がん悪液質だと思うのです。

 がん悪液質とは、簡単にいうと、がんが引き起こす栄養障害で、多くのがん患者さんが経験します。がん細胞は増殖するエネルギー源として、全身の筋肉や脂肪を分解。その過程でできる糖を取り込んでいきます。がん患者が痩せるのは、そのためです。

 しかし、そこに至るのは多くが末期。翁長さんはステージ2でしたが、開腹手術をしたことで免疫力が低下し、潜んでいた転移が一気に増大したことで、がん悪液質を早く呼び込んでしまったのではないでしょうか。そう思えてなりません。

 そんな悲劇を食い止める手段が、高精度放射線治療です。トモセラピーやサイバーナイフなどの高精度放射線は、がんの形に合わせて線量強度を変えながら、より集中的に照射でき、正常組織へのダメージを最小限にできます。開腹することがなく、体の負担はきわめて軽い。つまり、がん悪液質に陥るまでの期間を先延ばしできます。

 やり遂げたい思いがある人にとって、この点は重要でしょう。そんな観点で見ると、難治がんの膵臓がんこそ、治療選択が大切。高精度放射線治療が意味を持つのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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