糖尿病の急激な悪化は新疾患「IgG4関連疾患」の疑いあり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 膵臓がんだと思っていたら、良性疾患――。この可能性があるのが「IgG4関連疾患」と呼ばれる病気だ。都立駒込病院・神澤輝実副院長(消化器内科)に、知っておくべきことを聞いた。

 聞きなれない病名だが、世界的に注目を集めている。神澤副院長らが発表した論文は8月上旬、4年連続で権威ある医学雑誌「ランセット」の系列雑誌に掲載。翌週には、IgG4関連疾患のひとつ、自己免疫性膵炎の発症の仕組みを京都大の千葉勉名誉教授らが解明し、科学誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」に掲載された。

 IgG4関連疾患は、もともとは膵臓の病気として見つかった。

「以前から膵臓に腫瘤ができる“腫瘤形成性膵炎”の存在は分かっており、膵臓がんとの診断で切除されることが多かった。1991年には、都立駒込病院病理科の先生らが特殊な膵炎として報告しています」

 95年、東京女子医大が自己免疫性膵炎という概念を提唱。01年、信州大学が免疫タンパク質の一種IgG4が関係していることを発見。そして03年、IgG4が関連する現象は膵臓以外の全身の臓器にも見られることを神澤副院長らが突き止め、IgG4関連疾患という新しい全身性疾患の概念を提唱した。

 IgG4関連疾患では、全身のさまざまな臓器に腫瘤ができる。がんのような悪性ではなく、良性だ。IgG4を作る細胞やリンパ球が異常に増えて炎症が起こる。

「特によく見られるのは、膵臓、涙腺、唾液腺、リンパ節、腎臓など。膵臓で起これば自己免疫性膵炎として黄疸や腹痛、糖尿病の急激な悪化などを招く。涙腺ではまぶたが腫れ、美的に問題が出ます。腎臓では、繰り返しの炎症で腎機能障害のリスクが高まります」

■炎症が起こる場所によっては命にかかわるケースも

 つまりIgG4関連疾患そのものは良性であるが、炎症の場所によっては命にかかわる病気につながりかねない。IgG4関連疾患の存在がはっきりした今は、慎重にチェックし、もし該当し何らかの症状があるようなら、適切な治療を行わなければならない。

 たとえば、IgG4関連疾患である自己免疫性膵炎なのに膵臓がんと誤診して切除をすれば、過剰医療になるのはもちろん、IgG4関連疾患の治療は行われていないので、「また自己免疫性膵炎が起こる」あるいは「違う臓器に炎症が起こる」可能性がある。

 IgG4関連疾患は中高年男性に多い。血液中のIgG4の増加の有無を調べれば多くの例で分かる。受診すべき科は、消化器疾患では膵臓と胆道の専門診療科、それ以外は眼科、耳鼻咽喉科、リウマチ・膠原病科など。治療は、ステロイドの投与だ。

「IgG4関連疾患はステロイドでほぼ全例が改善しますが、ステロイドの減量や中止で再燃する例が20~30%ある。再燃を予防するために、少量を3年を目安に投与し続ける例も少なくありません」

 IgG4関連疾患の治療難渋例は、難病指定になっている。

 なお、自己免疫性膵炎が知られるようになるにつれ、懸念されているのが膵臓がんの見逃しだ。

「これまでは膵臓がんと思い、自己免疫性膵炎が見逃されてきた。その逆が起こる可能性があります。自己免疫性膵炎と誤診され、そのために膵臓がんの治療が遅れれば、大問題です」

 日本膵臓学会や日本胆道学会のHPで専門医を探し受診した方がいい。

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