がんとは何か

早期発見のカギは“がんのささやき” miRNAの意外な役割

血液で13種類のがんが早期発見できるシステムを開発中(国立がん研究センター)
血液で13種類のがんが早期発見できるシステムを開発中(国立がん研究センター)/(提供写真)

 前々回、腫瘍マーカーの多くが、がんの塊の中で血液が届かずに死んで、血液中に流れているがん細胞の死骸であること、そのため、がんがある程度成長していなければ、腫瘍マーカーは発見できにくいことなどを説明した。

 では、血液検査だけで、微小がんを見つけることは不可能なのだろうか?

「その答えとして近年注目されているのが、miRNA(以下マイクロRNA)とエクソソームと呼ばれる細胞内小器官です」

 こう言うのは、国際医療福祉大学付属病院内科学の一石英一郎教授だ。人間は37兆個の細胞で構成されている。その一つ一つの細胞の核の中には遺伝情報が保存されているDNAがあり、その周りにはDNAと、化学構造がよく似たRNAがある。

「RNAからはDNAのコピーであるmRNA(以下メッセンジャーRNA)が作られます。それがリボソームと呼ばれるタンパク質合成工場に移動して情報が翻訳され、同じRNAから作られたtRNA(トランスファーRNA)が運んでくるアミノ酸を使って、タンパク質を合成するのです」(一石教授)

 マイクロRNAは、やはりRNAから切り出されたもので、メッセンジャーRNAにくっついて遺伝子発現調整に関わることが分かっている。

 一方、エクソソームは脂質で囲まれた風船のような顆粒状の入れ物。中にメッセンジャーRNAやマイクロRNAなどを積み込み、周辺の細胞へ送り出す。そして、運んだ先の細胞と融合する。これを水平移入という。

「さまざまな細胞は、エクソソームを介して周辺の細胞と会話をしています。がん細胞も同じで、がん細胞が増殖していく上で有利になる分子を積み込んで周辺の細胞に移入することで、“ボクは敵じゃないよ”“仲良くして”とささやき、周囲の細胞が味方になるように教育していくのです。その結果、がんが増殖・転移しやすい微小環境を整えるのです」

 がん細胞がせっせと作ってエクソソームに放り込み、周囲の細胞に渡すのは、増殖、浸潤、転移といったがんの悪性化を促進する因子や、がんが生着しやすい微小環境を整える分子だ。

 実際に、東京医科歯科大学の研究グループは2年前に口腔扁平上皮がん細胞から分泌されたエクソソームの中のマイクロRNAが、がん細胞の移動・浸潤に寄与していることを明らかにしている。

 また、膵臓がん細胞に由来するエクソソームに含まれるマクロファージ遊走阻止因子が、肝臓への転移に関わっていることなどが分かっている。

 最近では、がん細胞が放つこうした“ささやき”(エクソソームやその中のマイクロRNA)を調べることによって、がんの早期発見しようとする試みが進められている。

関連記事