患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

食事のタイミング15分遅れて低血糖を起こし意識がもうろう

平山瑞穂さん
平山瑞穂さん(C)日刊ゲンダイ

 今回から、低血糖の恐ろしさについてお話ししよう。

 低血糖とは、血糖値が下がりすぎたことで心身が正常に機能しなくなっている状態を指す。視界のかすみ、動悸、発汗、思考力の低下などだ。糖尿病患者にこれがつきものなのは一見意外だが、患者の多くは血糖値を人為的に下げる何らかの薬剤を投与されている。

 1型ならインスリン注射が絶対に必要だし、2型でも症状によってはインスリンが、あるいは経口血糖降下薬などが処方されているケースが多い。

 たとえば、インスリンを打ったのに、その後何も食べずにいたら、当然低血糖になる。現在主流になっているのは、食事開始の直前に打つ「超速効型」インスリンだが、僕はある時期まで、食事の30分前に打つのが原則の「速効型」を使用していた。

 外食の時は、その「30分」を正確に測るのは難しい。にもかかわらず、僕は、きっちりと30分あけることにこだわっていた。ある日の仕事帰り、外食をするつもりで注射を打った僕は、適正な時間をあけるため、飲食店に入る前に買い物を済ませることを思いついた。

 今から思えば無謀以外の何物でもないのだが、僕はその時、デパートに浴衣を作りに行ったのである。15分かそこらで済むだろうと高をくくっていたのだが、とんでもない。浴衣を買うこと自体が初めてなので勝手も分からず、あれよという間に30分が過ぎてしまった。

 何も知らない店員さんが親切にあれこれと説明してくれるのをむげには遮れず、一通り聞き終えて支払いを済ませた時には、すでに注射してから45分が経過、目の焦点も合わなくなっていた。

 全身汗だくになりながら必死でレストランフロアを探し、どうにか「うどん」の文字を見定めた僕は、何も読めないメニューの一番上にある行を指さして注文、ほどなく出てきた何だか分からないうどんをむさぼり食って事なきを得た。

 これに懲りてからは、外食の際に無理につじつまを合わせるのは控えるようになった。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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