酷暑で舌力や唾液力はヘトヘト…「口元」の夏バテ解消法

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 酷暑で食欲を失い、食事は噛まずにのみ込める、冷たい麺類ばかり。そんな人も多いのではないか。実際、今年の夏は麺類が大人気。家庭用の手延べそうめん、チルド麺共に絶好調で各社とも前年比5%増だという。しかし、食べ物をしっかり噛む生活を忘れ、口元の筋肉や舌を甘やかせたままだと、さまざまなトラブルが起きてくる。自由診療歯科医師で、「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に、その問題点と口元の夏バテ解消法を聞いた。

■雑菌が繁殖している

「硬い物を食べない生活を続けると、舌の筋肉が衰えて、舌の位置が下がってしまいます。そうなると垂れ下がった舌先が下の前歯を押して歯と歯のすき間を広げたり、寝ているときに気道を塞ぎ、いびきをかきやすくなります」

 唾液の分泌量も減り、質も悪くなる。そうなると口の中が乾き、殺菌効果も低下する。唾液による歯の再石灰化も行われなくなる。口腔の免疫力も低下する。結果、虫歯や歯周病が増え、始終口の中がネチャネチャして口臭もひどくなるという。

「本来、硬い物を食べるだけで歯は汚れが落ちるのですが、それをしなければ当然プラークが付着しやすくなります」

 麺類のようなあっさりした食事は、水分と一緒に流し込むだけで喉の筋肉を使わないから、のみ込む力も落ちてくる。年寄りが食べるとむせるのは、喉頭付近の筋肉がきちんと働かず、気管にフタができないからだ。とはいえ、「ちょっとくらい噛まない期間があってもそんな変化が起こるはずがない」と思う人もいるだろうが、間違いだ。インプラント手術や歯周病の治療で1週間程度硬い食べ物を控えてもらっただけで、患者の口腔内は前述の変化が表れることがあるという。

「まして今年は梅雨明けから最高気温が30度を超える日が続き、気象庁が『災害的な猛暑』という異常気象。大抵の人は終日水分を口にしており、口腔内の唾液を常に洗い流している状態が続いています。人によっては、水ではなくスポーツ飲料や経口補水液を利用していますが、こうした飲み物には飲みやすくするために糖分がたっぷり入っています。それが、口腔内の一層の汚れや雑菌の繁殖につながっているのです」

■口を閉じて舌の運動をする

 では、猛暑でたるみきった口元をシャキッとさせ、状況を一変させるにはどうしたらいいのか?

「舌は、咀嚼中に大きな食べ物を奥歯に送り、砕かれてすりつぶした食べ物を喉に送るなど複雑な作業をしています。まず、この舌の筋肉から取り戻しましょう。それには舌を正しい位置に置くことです。口を閉じたとき、舌先が上顎の前歯の裏側にある歯肉側のくぼみの小さな出っ張り(切歯乳頭)に来るように常に意識します。これが正しい舌の位置です」

 そのうえで口を閉じた状態で舌の運動を行う。舌先を上唇と歯ぐきの間に入れる。その舌先を右頬の裏側、下唇と歯ぐきの間、左頬の裏側、上唇と歯ぐきの間にと、ぐるりと唇や頬の内側を押しながら回す。

「この運動を左右3回ずつ行うといいでしょう。最初は舌が疲れますが、3日も続ければ疲れなくなるはずです。そうなれば、3日に1回程度のペースで行えば舌の筋力は維持できるはずです」

■唾液量回復の特効薬は昆布

 基本的には野菜など歯ごたえのあるものをよく噛むようにすれば、唾液の分泌量は自然と増えてくる。しかし、中高年で持病の薬を飲んでいる人のなかには薬の副作用で唾液量がなかなか増えない人もいる。

「唾液の量を増やす薬もありますが、私がお勧めしたいのは昆布です。ひとかけらを口に含んでおくといいでしょう。すぐに唾液が出てきます。ただし、昆布によっては塩分が強いものもある。水でさっと塩分を洗い流したうえで使うといいでしょう」

■硬い物を噛む

 こういうと、せんべいやフランスパンなどを思い浮かべ、噛む力を鍛えることをイメージするかもしれないが、これも間違いだ。

「本当に硬い食べ物は歯が割れるなど、歯を失う原因であって、歯にとってはプラスとは限りません。ここでいう硬い食べ物はよく噛まないとのみ込めないものです。とにかくひと口30回を守り、しっかり噛むことです。そうすれば食材の味を感じられ、化学調味料の使用が抑えられ口腔内の汚れも減り、体調も良くなります」

 むろん、歯も時間をかけてしっかり磨く。そうすれば、口元の夏バテが解消される。舌の位置が高くなり、気道に舌が落ち込まないからいびきも消える。カビや細菌が減り、歯ぐきが引き締まり、口臭も減る。朝から爽快感を得られるはずだ。

関連記事