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2020年実用化へ最終段階 「線虫」が尿からがんを見つける

魚住隆行所長
魚住隆行所長(C)日刊ゲンダイ
魚住隆行所長 HIROTSUバイオサイエンス・中央研究所(千葉県柏市)

 2015年に九州大学の広津崇亮助教(当時)らの研究チームが「線虫が、がん患者の尿のにおいを高い精度で識別できた」と米国の科学雑誌に発表し、話題となった。

 同社(本社・東京都港区)は、その翌年に広津氏によって設立された「生物診断」の研究開発、製造販売などを行うバイオベンチャー。世界初の「線虫によるがん検査(N―NOSE)」を開発し、実用化に向けて最終段階に入っている。

 中央研究所の魚住隆行所長(顔写真)は、九州大学在籍時代に広津氏のもとで長らく研究を共にしてきた右腕的存在。がん検査に用いられる線虫の特性をこう話す。

「線虫とは、線形動物門に属する生物の総称で、回虫、ぎょう虫、アニサキスなど約1万種が確認されています。用いるのは『シー・エレガンス』という体長約1ミリで透明な線虫で、マウスやショウジョウバエなどと同様にさまざまな研究で使われているモデル生物です。がん患者の尿に誘引され、健常者の尿は嫌う特性があります」

 具体的には、シャーレ(容器)の中央に50~100匹の線虫を配置し、シャーレの隅に希釈した尿を1滴垂らす。1時間ほどして、尿に線虫が多く集まっていればがんである可能性がある。これを同一の尿で複数回繰り返し検査するという。

 においをキャッチする嗅覚受容体(センサー)は人間で約350種類、犬で約800種類。対して目を持たない線虫は1200種類ある。がん患者の尿に含まれる何らかの物質のにおいに反応していると考えられるが、その物質の正体は分かっていない。既存のにおいを検知する最新機器をもってしても、がん患者と健常者の尿のにおいの違いは鑑別できないという。

「従来の人工機器を使うがん検査では、高精度と低コストを両立するのは難しい。当社の『N―NOSE』なら、主要ながんを含む18種のがんが早期発見できるので、最初に受ける1次スクリーニングに非常に適しています。実用化後の検査費用は、1回8000円台と考えています」

■ステージ0期、Ⅰ期にも反応

 犬の嗅覚を使ったがん検査も一部で行われているが、嗅ぎ分ける能力に個体差があり、大量の検体を安定的に処理するのは現実的ではない。比べて線虫は同一個体に精子と卵子を持ち、1匹で200~300個の卵を産む。3~4日で成虫になり、寿命は20日。4日で300倍に増え、エサは大腸菌なので安価だ。

 線虫によるがん検出の「感度」、がんでない人をがんでないと判定できる「特異度」は共に90%前後。ステージ0期、Ⅰ期でも反応するという。

「いまは手作業でやっていた部分を機械に置き換えるシステムの最終モデルをつくっているところです。実用化は、2020年1月からのサービス開始を目指しています。全国に解析センターを配置して、そこに医療機関から検体を送ってもらう。最初のうちは、共同研究をしている医療機関が窓口になるでしょう」

 線虫がん検査は、再発・転移の診断、治療効果判定への応用も検討されている。また、次の目標は「ゲノム編集によってがん種を識別できるオリジナルの線虫を開発すること」だという。

▽2010年九州大学理学部生物学科卒後、同大システム生命科学府博士課程修了・博士(理学)取得。ミツカンホールディングスを経て、HIROTSUバイオサイエンス入社。17年現職、18年から研究開発本部・副本部長を兼務。〈所属学会〉日本分子生物学会など。

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