がんと向き合い生きていく

「がん細胞があるかどうか」を確認する検査は最も重要

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 がんの「確定診断」は、生検や手術によって切除された組織の病理診断によって行われます。つまり、専門の病理医は提出された検体を、顕微鏡でがん組織を確認して、がんという診断をつけるのです。必要な時は標本の免疫染色、遺伝子学的検査を追加して診断の確実性を高めます。

 多くの場合、患者の症状からは「がんではない」と考えられたとしても、がんと病理診断が下されれば、それに従って治療が行われることになります。病理診断は最も重要な診断なのです。エックス線、CT、PETなどの検査も、あくまで「影を映している」わけですから、確定診断ではありません。患者の病状が緊迫して一刻を争うような状況で、組織が採取しづらい場所にあり、臨床的にがんであることが間違いないと考えられる場合であれば、病理の確定診断なしに治療を行うこともあります。しかし、ほとんどはがんという病理診断があって治療が行われるのです。

 細胞診断は、組織ではなく剥離した細胞、つまり剥がれ落ちる細胞を観察するもので、喀痰、尿、胸水、腹水、脳脊髄液、胆汁、乳腺の分泌物などで行われます。また、がんを疑われる腫瘤に針を刺し、細胞を吸引して検体とする場合もあります。そこでがん細胞を見つけることによって、がんの診断ができます。

 しかし、少ない検体で判断することから、その検体にがん細胞がなかった場合は「採取した検体にはがん細胞がなかった」というだけにすぎません。体全体の診断をしなければ「がんではない」とはいえないのです。

 細胞診は尿や喀痰といった検体を採取することが患者の負担にならないという利点があります。ただ、検体の取り方などによって細胞が壊れかかっていた場合は診断できません。

 細胞診断では、一般的にクラスⅠ(異常細胞は認めない)、Ⅱ(異常細胞または異型細胞を認めるが悪性ではない)、Ⅲ(悪性細胞を疑うが確定的ではない)、Ⅳ(悪性細胞を強く疑う)、V(悪性細胞と断定できる)に分けられます。

■過信は禁物だが…

 34歳のPさん(女性、妊娠歴なし)は、右乳頭からピンク色の分泌物があり、ある病院の乳腺外科を受診。エコー検査、マンモグラフィー、CT検査などで特に異常は認められませんでした。しかし、分泌物の細胞診検査でクラスⅢと判定されました。つまり「悪性細胞を疑うが確定的ではない」という診断です。

 Pさんはとても心配になり、手術するかどうか悩みました。そこで担当医は、病理医と相談して他のがん専門病院の病理医にその標本を送って意見を聞くことにしました。その結果、数人の病理医の意見がクラスⅡだったことから、定期的に検査をして経過を見ることになりました。幸いPさんはその後、分泌の症状はなくなり、問題なく過ごしています。

 以前ある病院で細胞診がクラスⅣの判定で乳がんと診断された患者が手術を受けたものの切除した乳腺にはがんが見つからず、がんではなかったのに乳腺を切除されたという悲劇がありました。細胞診を過信してはいけないということです。

 とはいえ、細胞診が大切な検査であることは間違いありません。尿の細胞診では、腎がん、腎盂がん、尿管がん、膀胱がんなどの診断に役立ちます。尿の中にがん細胞が剥がれて混じってくるのです。また、喀痰にがん細胞が混じってくる場合があります。肺結核、肺胞出血などで血痰となる場合もありますが、肺がんを疑って細胞診を行います。

 胸水、腹水があって、その中にがん細胞があれば、がん性胸膜炎、がん性腹膜炎の診断となります。この場合、もともとは肺がんでも、胃がん、膵臓がんでも、病期はステージⅣとなり、手術不能と判断されます。

「がん細胞があるかどうか」はとても重要な検査です。だからこそ、診断に関わる技師には、細胞検査士、細胞診専門医の厳しい資格認定の制度があります。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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