がんとは何か

アスピリンが大腸がん予防薬として期待されるのはなぜか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、感染症ががんの一因であることを説明した。感染で慢性炎症が起きるからだが、慢性炎症と関連があるのはがんだけでない。糖尿病、逆流性食道炎、石綿(アスベスト)、喫煙などといった非感染症でも慢性炎症となり、がん発症の引き金になるといわれる。もし、これが本当なら抗炎症剤を使えばがんは予防できるのではないか? 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「可能性はあります。実際、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)が、がんリスクを減少させると世界中で報告されています。とくに注目されているのがアスピリンです。世界中の研究者が大腸がんの予防薬になるのではと期待していて、いまも研究が続いています」

 例えば、1991年に66万人を対象としたコホート研究で、アスピリンの長期服用者は大腸がんリスクが4割低いと報告。2010年にはアスピリンを5年以上服用した人は、そうでない人に比べて大腸がんによる死亡率が半分近くに減ったことが報告された。

 こうした多くのデータを受けて、16年4月から米国予防医学専門委員会は、50~60代に対し大腸がん予防のための低用量アスピリンの毎日内服を奨励しているという。

 日本でも同様の研究が行われていて、06年から国立がん研究センターと京都府立医大など19施設が参加して、「J―CAPP STUDY」(06~12年)がスタート。大腸がん進行の可能性が高い大腸ポリープを内視鏡で切除した患者311人を低用量アスピリン投与群とプラセボ群に分けて2年後に比較した。結果、投与群は新たな大腸ポリープが約40%減少したことがわかった。

 これほど効果があるのなら、日本でも低用量アスピリンの服用を奨励してもよさそうだが、なぜしないのか?

「実は、『J―CAPP STUDY』で喫煙者と非喫煙者という基準で比べたところ、非喫煙者群では新たな大腸ポリープの発生リスクが63%減少したのですが、喫煙者群では逆に再発率が3・45倍に増えていたのです。その理由はハッキリしていませんが、たばこに含まれる成分が代謝されるときにアスピリン成分となんらかの化学反応を起こし、新たな大腸ポリープを生み出したと考えられています」

 アスピリンには出血が止めにくい、重篤な胃痛や潰瘍を引き起こす、などの副作用がある。

 そうした事情もあってアスピリンによる大腸がん予防効果を調べる新たな「J―CAPP2 STUDY」がスタートしている。

 アスピリンが大腸がんを抑制する理由は抗炎症作用ががん発症を抑え込んでいることだと容易に想像できる。しかし、明確なメカニズムはわかっていない。今の時点で素人判断で使用するのは危険だ。

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