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年間600万円がタダに NY大学医学部「授業料無償化」の衝撃

 ニューヨーク大学医学部が、授業料を完全無償にすると発表しました。

 一部の優秀な学生に与えられる奨学金でもなければ、経済的に厳しい環境にある学生へのサポートでもありません。これから入学する学生約100人、そして在学中の学生約400人全員の授業料が免除されるのです。ニューヨーク大学医学部の授業料は年間約600万円ですから、その驚きが分かると思います。

 全米の医学部トップ10位以内にランキングされている大学として、無償化は初めての試み。踏み切った背景には、今後ますます深刻になると予測される医師不足があります。「高過ぎる授業料こそが、優秀な学生が医師になるのを妨げている」と、大学側は説明しています。

 たとえばアメリカの医学部の学生の4人に3人は、授業料をローンを組んで支払うために、多額の借金を抱えて卒業します。その平均額は2000万円とも報告されています。

「こうした負債を恐れて、学生が医学部を敬遠する傾向にある。その中にはがんの治療法を発見できる者が含まれているかもしれない。最高の能力を持った学生に入学してもらうために、無償化に踏み切った」

 ラファエル・リベラ医学部長はこうコメントしています。

 高額な授業料は医師になる学生の数を減らすだけでなく、卒業後の借金返済のために、報酬が少ない小児科医や内科医のなり手が減る傾向も懸念されています。これらが少しでも改善されることを、大学側は期待しているのです。

 アメリカでは医学部に限らず、大学授業料の高騰は社会問題となっており、公立の大学を中心に無償化に踏み切るところが少しずつ出てきています。

 そして今回のニューヨーク大学の英断に刺激されて、他のトップクラスの大学医学部も同じように無償化を打ち出すのではないかという推測もされています。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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