食後の胸焼けは要注意 胃酸は「歯・耳・のど」まで蝕む

生活習慣で分泌量が上昇
生活習慣で分泌量が上昇(C)日刊ゲンダイ

「食後、よく胸焼けがする」「胃がもたれる」「酸っぱいものが込み上げる」――。こんな人は「歯」「耳」「のど」をよく調べた方がいい。胃酸があなたの臓器を溶かし、健康を蝕んでいる可能性がある。

「虫歯、歯周病に次ぐ、第3の歯の病気として注目されているのが『酸蝕歯』です。酸性度の強い飲み物などで歯が溶ける病気で、ワイン、ドレッシング、炭酸飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク、各種の酢などを単体で繰り返し飲むのが原因とされます。しかし、最近目立っているのが、胃酸の逆流による酸蝕歯です」

 こう言うのは自由診療歯科医師で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長だ。

 飲み物による酸蝕歯では、飲み物が歯に直接触れる前歯の表面が溶けやすいが、逆流性食道炎によるそれは、歯の裏側が溶けるという。

 そもそも食道から胃に下りた食べ物は、胃壁から分泌される酸性度の高い胃酸と消化酵素によって分解される。胃は、自ら分泌する強烈な胃酸から身を守るため、酸に強い粘膜を持っているが、食道にはそれがない。そのため食道と胃の間には下部食道括約筋があり、胃酸を含めた胃の内容物が食道へ逆流しないよう阻止している。弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「ところが、年を重ねると下部食道括約筋が緩んできて、逆流性食道炎を発症しやすくなります。肉などタンパク質の多い食べ物を取ると、十二指腸からコレシストキニンと呼ばれるホルモンが分泌され、下部食道括約筋が緩みやすくなり、胃酸も分泌しやすくなります。肥満、猫背など姿勢が悪い人、便秘気味の人は胃を圧迫しやすいので要注意です。食べてすぐに横になる人は、物理的に胃酸が逆流しやすくなります」

 胃酸が胃から食道に逆流すると食道の粘膜を刺激し、炎症が起きたり、ただれや潰瘍ができたりする。逆流した胃酸は食道から肺につながる気道の入り口(喉頭)にダメージを与えて炎症を起こす。その結果、慢性的な咳を出したり、ポリープを作ったりして声をだみ声に変えたりするという。

「最近ではとくに睡眠中に逆流した胃酸が食道にとどまらず口の中へ逆流するケースが増えているのです。歯は酸に弱いが、通常は唾液が酸を中和してくれるため問題がありません。ところが、酸性度の高い飲み物を繰り返し取って酸に触れるうちに、歯の表面のエナメル質が溶け、その内側の象牙質までダメージを受けてしまうのです。しかも、酸蝕歯は虫歯と違い、障害を受ける範囲が広いことが報告されています」(木村院長)

 逆流した胃酸がダメージを与えているのは歯だけではない。口とつながっている耳や鼻に影響が出ることがある。

 具体的には喉頭炎、咽頭炎、副鼻腔炎、反復性中耳炎、後鼻漏症状などだが、すでに中耳の中に胃酸の成分であるペプシノーゲンがたまり、難治性の中耳炎を起こした例も報告されている。

■ピロリ除菌はメリット大

 問題は、こうした逆流性食道炎の患者数は右肩上がりに増えており、40年前に比べて9倍ほどに膨らみ、一向に収まる気配がないことだ。

「近年は、胃液を分泌する細胞の数が昔に比べて増えていることが報告されています。そのせいで胃酸が過剰に分泌されやすくなっています。胃酸を無駄に分泌させないような生活習慣が大切です」(林院長)

 脂肪分の多い食事を避け、消化の良いものを腹八分目で食べるようにすることだ。

 酸味や刺激の強いものを控え、お腹のベルトをきつく締めない、無理して重い物を持たない、肥満に気をつけるなど、腹圧が高くならないよう気をつけることも重要になる。

「逆流性食道炎で忘れてならないのはピロリ菌による影響です。胃がん、胃炎や十二指腸炎などの原因といわれるピロリ菌は、その感染者が多い国では逆流性食道炎が少なかったといわれてきました。ピロリ菌で胃の粘膜が荒れて胃酸の分泌が少なくなるからです。そのため、胃がん予防にピロリ菌除菌をする人の中には、除菌すると胃酸が増えて逆流性食道炎になるのではないかと気にする人がいます。しかし、最近の研究では、除菌直後に逆流性食道炎になっても一時的であり軽症に過ぎず、長期的に見て除菌のメリットの方が高いことが報告されています。安心して除菌をお勧めします」(林院長)

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