しかし、これでは現地の医師に対する教育効果がほとんどありません。彼らが普段行っているスタイルとはまったく異なるケースが多いので、手術に直接携わることはできませんし、ただ見学するだけになってしまいます。単純に「その患者の手術がうまくいきました」というだけで、現地の関係者が得るものはほとんどないのです。
「医療先進国にはこういう手術があって、こんなふうにやっているんだ。自分たちとは違う」といった感想を抱くだけで、強力なリーダーが医療体制を変革するくらいのことがなければ、その後の現地の医療は変わりません。来日する大リーガーのプレーを目の当たりにして感嘆していたかつての日米野球のようなもので、完全にショーで終わってしまうのです。
海外で手術を行う別のパターンとして、手術ができる複数のスタッフで臨む体制もあります。執刀医のほかに助手と麻酔科医ら数人が現地に出向き、看護師は現地のスタッフに任せるといったパターンです。手術室の中には、われわれと現地スタッフの両者とコミュニケーションをとれる人員を入れ、なんとなく現地スタッフと一緒に手術をやりましたという形になります。
天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」