介護のプロ、ケアマネジャーの説得で、あっけなく在宅介護を諦めた母。その日の夜、叔母(母の妹)に電話をしている様子を見ていて、私は戦慄を覚えた。
「今はまともなお父さんが3割で、今後もっと減るって、ケアマネさんが話してくれてね」
ああ、母よ、それは私が言ったんだけどな。父の介護問題は、母の老化を確認できるバロメーターでもあると気が付いた。
実はもう一つ極め付きの秘策がある。私も母も日記をつけている。この連載原稿を書くに当たり、「介護の苦労を書いた部分を読み返して、正確な日付を教えてほしい」と伝えた。
母は自分の日記を読み返し、「(父に)鼻クソや目やにをわざとつけられて殺意を抱いた」「来る日も来る日も尿臭、絶望」などの記述を反すう。最終的には「在宅介護はもう無理ね」と母に言わせたのだ。もうね、そんな自分を褒めてあげたい。
私の中の罪悪感もゼロではない。実はレオナルド・ディカプリオの映画「シャッターアイランド」を見てつらくなった。離島の精神科病院に捜査で訪れた刑事が、実は自身が精神病だったという話だ。
「なぜ自分がここにいるのかわからない」と訴える姿が、父と重なる。人間らしく生きること、それを私が奪ったのではないかと考えてしまった。
エンタメを楽しめなくなるのはよろしくないし、悲観的なことばかり口にするのも周囲に気を使わせて迷惑だ。
まず、できるだけ訪問すること。職員の心証も良くなるし、手も抜かれないはずだ。あざといが、お菓子などの手土産も時折渡す。
そして、父の日常に刺激を入れるために、週2回の訪問マッサージを導入。1回20分で約600円。施設以外の他人と接する機会を増やし、若い女性の有資格者に施術してもらうので、父もちょっとは心華やぐだろう。
私の罪滅ぼしは、父の「快」の感情を増やすこと。それしかない。
実録 父親がボケた