がんと向き合い生きていく

一緒に悩み頑張ってください それが医師の私の生き甲斐です

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 健康で立派なあなたには関係ないでしょうが、死ぬことを考えると怖いのです。

 Aさんの主治医の独り言です。

 私は、今度新しくAさんの担当になった医師です。私はAさん自身ではないですから、Aさんの気持ちを100%理解することはできません。それでも、私は一生懸命、あなたのどんなことでも聞きます。聞いて、どうすればいいか一緒に考えます。

 Aさんのがんは、この治療で統計上の生存期間の中央値は6カ月となっています。ですから、これから外れる方もたくさんおられるのです。6カ月たって元気だったら、1年たったらまた新しい治療薬が使えて、今度はそれからまた1年と言われ、また、また……。そうして私が担当した患者さんで、もう7年生きた人もいます。本当に治った人もいるのです。

 中には予想よりも早く亡くなった患者さんもいますので、人の命は分かりません。Aさんの先のことは、誰にも分からないのです。人は必ずいつかは死ぬのですが、私は死の受容なんてする必要はないと思います。きっと、私自身もいざとなった時には死の受容なんてできないと思います。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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