今年5月の糖尿病学会は、医師、看護師、管理栄養士などの参加者数が過去最高だった。“現代の国民病”への、医療関係者の関心の高さがうかがえる。特に注目を集めた話題について、東京慈恵医大病院糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也准教授に聞いた。
■薬
大多数の医師が関心を寄せたのが、2014年承認の「SGLT2阻害薬」。
尿にカロリーを排出し脂肪の分解を促進する薬で、HbA1c(過去1~2カ月の血糖コントロールを示す)を下げ、体重を減少させる。
「SGLT2阻害薬は糖尿病に対して承認されている薬ですが、近年、心不全予防にも効果的だと分かってきたのです。しかも、早い段階で非常に高い効果を示す。欧米で臨床試験などの結果が発表されており、今回のセッションでは、“日本人にも有効なのか”という関心を持った医師が多く集まりました」
糖尿病そのものが心不全のリスクを上げるため、循環器専門医が糖尿病患者を診ている場合、SGLT2を第一治療選択肢とするケースがほとんど。一方、糖尿病専門医では“積極派”と“慎重派”がいる。
「慈恵医大も心不全の前段階にある拡張能障害に対する有効性を確認しており、積極的にSGLT2阻害薬を出しています。ただし、糖尿病の薬の中では血糖降下作用が弱い場合もあるので、ほかの血糖降下薬と組み合わせます。臨床試験の結果から、心不全を起こす前から使うとより効果的だと考えています」
■測定器
17年に登場したのが新タイプの持続血糖測定器。センサーを二の腕に張り付け24時間、2週間分の血糖を測定。いつでも血糖値を確認でき、かつ血糖値の上昇・下降の波を把握できる。
「今後はこれをどう使いこなすか。今回の学会で注目が集まりました」
血糖値の上昇・下降の幅は、極力小さくすべきというのが、血糖値に関する最新の考えだ。
「一日の“波”をチェックできれば、血糖値の上昇・下降のタイミングを知ることができる。しかし、程よく上昇したものを程よく下降させる手段がまだない。血糖値を下降させようと運動するなどして、かえって低血糖になる問題が指摘されています」
良いツールが現れた。この先は、患者それぞれに応じた使い道を見つけられるか――。これが課題になっている。
■和食の勧め
「糖質制限の問題点が、学会内の市民公開講座で改めて取り上げられました。糖尿病の患者数増加に糖質が関係してるのであれば、糖質摂取量も増えているはず。しかし実際は、反比例して糖質摂取量は減っている」
さらに、糖質制限で早く減量できるが、女性の平均体重は以前と比べて減っており、一方、女性の糖尿病や心臓病のリスクは増加している。
「つまり、糖質摂取が糖尿病の大本の原因ではない。そもそも脳の栄養分であり、日本人の食生活に深く入り込んでいる糖質は、短期間はやめられても、やめ続けることは困難。長期的対策として、日本人に馴染み深い和食で、血糖値をうまくコントロールできる食生活を身に付けるべき」
具体策として①糖質の前に食物繊維が豊富な野菜を食べ、血糖値を上げにくくする②よく噛んで食べる③夜の糖質は少なめに④五感を楽しめる彩り豊かな献立にし、栄養の偏りを防ぐ。
一見、当たり前の内容かもしれないが、糖質がいいか悪いか揺れている人が多い表れか、熱心にメモを取る市民が集まった。
参考にすべし。