がんとは何か

がん細胞を焼いているのではない 放射線治療を正しく知る

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 放射線治療というと「焼かれる」「熱い」というイメージを持つ人が少なくない。原発事故などで放射線を浴びて皮膚が焼けただれた映像を思い出すからかもしれない。

 しかし、ごく少量の放射線を使うがん放射線治療は、がん細胞を焼き殺す治療法ではない。

 放射線はがん細胞に含まれる水の分子を電離分解して活性酸素をつくることで間接的にDNAを傷つけて細胞死をもたらす治療法だ。そのため、治療を受けても熱くないし、ほとんど痛くならない。

 例えば、4グレイの放射線量を全身照射した人の半分は1カ月以内に死ぬことがわかっている。仮に体重70キロの人が4グレイの放射線を全身に浴びた場合、人が吸収するエネルギーは約67カロリー。これを温度に換算すると約0・001度ということになる。つまり、がん治療で浴びる放射線で体温は上がらない。

 そもそも放射線が人に影響を与えるメカニズムは人を熱によって障害するようなものとはまったく違うのだ。

 ちなみに、がんの致死線量とはがん細胞の90%程度が死滅する線量をいう。それはがんの種類によって違い、脳腫瘍、悪性黒色腫は放射線感受性が低く、高線量を照射してもがん病巣をコントロールするのは難しいとされている。

 一方、1日2グレイの単純分割照射をした場合に5年以内に正常組織の5%に障害が出る照射線量を耐容線量(TD5/5と表示。50%に障害が発生する割合はTD50/5と表示)という。がん細胞は正常細胞に囲まれているため、がん放射線治療を行うと必ず正常細胞は放射線を浴びることになる。

 従ってがん放射線治療は、重要な臓器の正常細胞が耐えられないような線量を照射することはない。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「この2つの数値からはじき出されるのが、放射線治療を行えるか、行えないかを示す指標である治療可能比です。これが1.0以上であることが、がん放射線治療の実施条件になります。無視すれば、がんが治る可能性は高くなるかもしれませんが、必ず正常組織に有害事象が起こることになります。つまり、敵も味方もやられてしまい、合戦でいえば痛み分けのような状態かもしれません」

 繰り返しになるが、がんの放射線治療法で照射による有害事象を完全になくすことはできない。「切らずに治すがん治療」といわれる放射線治療だが、有害事象が少なくとも5年間で5%発生するのは仕方がないものとして行われていることは覚えておいた方がいい。

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