役に立つオモシロ医学論文

心臓病予防に水分は多めに取るほうが良いのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 水を飲む量が不足すると、血液中の水分量も低下し、いわゆる“ドロドロ血”となって血管を詰まらせ、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすいといわれています。とはいえ、血液の粘稠(ねんちゅう)度を上昇させる要因は、血液中の脂質の量など多岐にわたり、水分摂取を促すことで心筋梗塞や脳梗塞が予防できるかどうかについては議論の余地がありました。

 そんななか、栄養疫学に関する国際誌の電子版(2018年8月15日付)に、水分摂取量と心臓病による死亡リスクの関連を検討した観察研究の論文が掲載されました。

 対象となったのは40~79歳の日本人男女5万8301人です。被験者は、飲食物からの水分摂取量が少ないグループから多いグループまで、5つの集団に分けられ、心臓病による死亡リスクなどが比較検討されています。

 中央値で19.1年追跡した結果、心臓病による死亡リスクは、最も少ない水分摂取量の集団と比較して、最も多い水分摂取量の集団で、男性においては12%、女性においては21%、統計学的にも有意に低いことが示されました。

 また女性では脳梗塞による死亡リスクが30%、統計学的にも有意に低下するという結果になっています。

 男女ともに水分摂取量が多いと心臓病による死亡リスクが低い傾向にあるとはいえますが、男性では統計学的な差は認められず、その影響はあまり明確ではありません。

 もちろん、水分摂取が不足して、脱水症状を起こしてしまうのは危険ですが、多めの水分摂取で夜間の頻尿症状を起こすこともあり、特にご高齢の方では転倒のリスクに注意する必要があります。それぞれの生活スタイルに合わせて、適切な量の水分摂取が肝要です。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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