天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

圧倒的な薬剤不足の環境でもオフポンプで冠動脈バイパス手術をやりきった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 8月中旬に4泊6日の日程でベトナムに単身で出向き、3施設で4例の手術を行った話を続けます。

 ひとりで渡航したのは、現地のスタッフと一緒に手術をすることで、ベトナムの若手医師たちに自分の技術や経験をより多く伝えたいという“狙い”がありました。ほかにも、患者さんを犠牲にすることなく、現地の医療に何が足りないかを見つけ、日本とはどのくらいギャップがあるのかを体感する――。そんな目的も持っていました。

 1人目の患者さんは狭心症で、首都ハノイ市にある108国防軍基幹病院で冠動脈バイパス手術を行いました。「108」というのは部隊名と関連しているそうです。

 日本でも普段から実施している心臓を動かしたまま行うオフポンプ手術を選択したのですが、薬剤の不足に苦労させられました。オフポンプを行う際、2ミリ以下の細い血管をつなぎ合わせる関係でβ遮断薬という薬剤を使って心臓の拍動を抑えて処置を行います。心臓の拍動が通常のままだと、それだけ操作が難しくなり、繊細な縫合が困難になるので難易度がアップします。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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