天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

圧倒的な薬剤不足の環境でもオフポンプで冠動脈バイパス手術をやりきった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 そうしたさまざまな障害があったことで、手術の途中で「こうしておけば……」という気持ちが頭をよぎったのは事実です。しかし、患者さんのためにも引き返すわけにはいきません。拍動を抑える薬がないのであれば、いかに心臓をより自分の手元に近いところに置いて操作できるようにするかを考える。環境が整っていないなら、その中で工夫しながら対処するしかないと、自分自身の“初期化”を行ってやりきりました。

 結局、最終的には納得のいく内容で手術を終え、現地の関係者にも驚かれました。

 自分自身にも大きなプラスがありました。ベトナムでの手術を経験して、日本では恵まれた環境で手術をしていることにあらためて気づかされました。さらに、帰国して最初の冠動脈バイパス手術に臨んだとき、これまでより心臓が大きく動いていても、まったく気になりませんでした。“怖さ”がなくなったことで、今までよりもさらに素早く処置を終わらせることができたのです。

 年を重ね、必要以上に慎重になっていた自分がまた若返った感覚です。動きが重くなったパソコンを初期化したようなものかもしれません。そうした意味でも、ベトナムでの経験は貴重なものになりました。

4 / 4 ページ

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事