患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

ある深夜にイライラし絶叫…原因は低血糖による錯乱だった

平山瑞穂さん
平山瑞穂さん(C)日刊ゲンダイ

 低血糖の兆候としてよく挙げられるのは、めまい、動悸、異常な発汗、手足の震えなどだ。これはまあ、どういうものか容易に想像できるし、実際に体験すればすぐに、「ああ、これがそれか」と見当がつく。

 だからすぐに補食をする(食事以外に適宜に何かカロリー源を摂取すること)など対処もできるのだが、僕は最初から、そこにしばしば並んで挙げられている「異常な言動」という字面が気に掛かっていた。

 異常な言動? 何をもって、どこから、そう見なすのか。低血糖のせいでおかしな振る舞いをしたとしても、それが「異常」であることを、異常を起こしている当の本人が認識できるものなのか。

 ある深夜、低血糖を起こした僕は、すぐに補食をして、これで安心と思っていたのだが、しばらくするとなんだか異様にイライラして居ても立ってもいられなくなり、しまいには「うわーっ!」と叫びだしてしまった。

 すでに寝ていた妻が血相を変えて、「どうしたの?」と駆けつけてきた。脳内の一部だけが冷静で、「ああ、この姿は彼女からは異常に見えるはずだ」と思った。それでいて僕は衝動を抑えることができず、なおも叫び続けた。恐怖のあまり取り乱している妻の目の前で。

 5分ほどすると僕の中のイライラは収まってきて、やがて平常の状態に戻った。後日、主治医に報告すると、あっさり「ああ、錯乱だね」と言われた。

 補食はしていたものの、それが血糖値を十分に上げるまでに時間がかかっていて、その間に軽度の意識障害が起きていたらしい。放置していれば昏倒に至る状態だ。

 恐ろしい体験だったが、おかげで「異常な言動」の何たるかが分かったという面はある。

 ただ、案じていたとおり、「異常な言動」をしている渦中の僕自身は、それに気づくことができない。

 それ以降はもっぱら妻が僕の言動に気をつけ、ちょっと怪しいと思うと即座に「低血糖になってない?」と注意を促すようになった。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

関連記事