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歯ぐきに隠れた歯石を除去する3つの手術法で歯周病を再生

山本松男科長
山本松男科長(C)日刊ゲンダイ
山本松男 昭和大学歯科病院・歯周病科

 歯を失う最大原因の「歯周病」。歯周病菌が炎症を引き起こす感染症で、軽症を含めると国内の成人の7~8割が罹患しているといわれる。進行すると歯と歯肉の間の溝(歯周ポケット)が深くなり、歯を支える歯槽骨などの歯周組織が破壊され、やがて歯がグラグラになって抜け落ちる。

 その破壊された歯周組織の再生を促す治療が「歯周組織再生療法」だ。やり方は3つある。2008年に保険適用になった「GTR法」、07年から先進医療になっている「バイオ・リジェネレーション法」、16年に保険適用になった「歯周組織再生剤(リグロス)を用いた再生療法」だ。

■早いほど効果は高い

 歯周病の再生治療は、どんなタイミングで行われるのか。

 昭和大学歯学部教授の山本松男科長(顔写真)が言う。

「歯周病治療は、歯ブラシなどで毎日、プラーク(歯垢)を除去することが大前提。そして、歯石は歯科医院でスケーラーという器具を使って除去します。しかし、歯周ポケットが4ミリを超えると入り込んだ歯石がすべて取れないので、『フラップ手術』という歯周外科手術での除去が検討されます。歯周組織再生療法は、このフラップ手術と併せて行う治療法です」

 フラップ手術は、局所麻酔のもと歯肉を切り開き、隠れているプラークや歯石をスケーラーで取り除いて歯肉を閉じて縫い合わせる。歯槽骨の破壊が初期なら、フラップ手術だけでも歯周組織の再生は可能という。再生治療の場合は、フラップ手術できれいにした後に再生を促す人工膜や薬剤などを入れて、ひと手間加えて歯肉を閉じるのだ。

 GTR法は、歯肉、歯槽骨、歯根膜など、それぞれの歯周組織の再生スピードの違いに着目した方法。歯肉が最も早く増殖するので、歯肉が欠損部に入り込まないように、特殊な吸収性の人工膜を設置して縫合する。人工膜の下で歯槽骨や歯根膜などがゆっくり再生してくるのを待つのだ。

 ただし、GTR法は、人工膜のシートを患部の歯に合わせて一つ一つ切り出さなくてはいけないのが欠点。技術が難しく、時間もかかるので、保険適用でも今はあまり行われないという。

「バイオ・リジェネレーション法は、『エムドゲインゲル』という豚の歯胚(幼弱な歯)由来のタンパク質を患部に塗ってから歯肉を縫合します。『リグロス』の方はFGF―2という成長因子を利用した薬剤で、血管の新生を促進させて減少した歯周組織の再生を助けます。こちらも患部に塗って歯肉を縫合します」

 エムドゲインゲルは世界約250万症例で安全性が確認されている。リグロスも安全性が高いが、口腔がんやその既往がある人には使用できないという。

 これらの再生治療は、特定の歯の歯周組織が極端にくぼんでいる「垂直性骨欠損」が対象となり、再生には半年以上かかる。同院の骨再生率の比較データ(9カ月間)では、フラップ手術のみが0・55ミリ、エムドゲインゲルが1・18ミリ、リグロスが2・93ミリと最も高い。

「再生治療によって歯周組織が完全に元に戻るわけではありません。しかし、早く治療するほど効果は高いので、フラップ手術が必要になったら治療法の選択肢のひとつと考えていい。まずは主治医に相談してください」

 再生治療の費用は、歯周病治療の一環で行われるので患者によってさまざま。

 先進医療のバイオ・リジェネレーション法は、受けられる施設は大学病院など一部に限られ、保険診療の部分以外の自己負担は1歯につき6万~7万円ほどだ。

1992年東京医科歯科大学歯学部卒後、同大大学院修了。米国アーカンソー州立医科大学内分泌部門・骨粗鬆症センター、鹿児島大学生命科学資源開発センター准教授などを経て、2005年から現職。〈所属学会〉日本歯周病学会専門医・指導医、日本歯科保存学会専門医・指導医など。

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