「入院を減らして、自宅で病気を治しましょう」――。政府の掛け声は聞こえはいいのですが、要は「そう簡単に入院させない」と言っているようなものです。そんな時代が、目前に迫ってきています。
今までは平均入院日数を短縮する政策が取られてきました。一般病床で見ると、2000年には24.8日でしたが、16年には16.2日に減っています。そうすることで、病院や病床を増やすことなく、増え続ける患者(その多くは高齢者)を効率良くさばいてきたのです。
しかしそれも限界に近づいてきました。このままでは財政が持ちません。そこで団塊世代が後期高齢者入りする25年に向けて、政府は大規模な病院・病床再編を仕掛けているところです。一般病床を2割減らそうとしているのです。
一方、後期高齢者が増えるため、患者は25%ほど増える見込み。入院日数をもっと減らそうとしても、おのずと限界があります。
そういうわけで、入院は重症患者優先。比較的軽症な患者は通院か在宅診療を選ばなければなりません。
もちろん医療の進歩によって、多くの病気が在宅でも治療できるようになるはずですが。
寝たきりや徘徊など、手のかかる老人患者の受け皿としての役割を果たしてきた療養病床については、減らしはしないが、増やしもしません。そのため、今まで以上に入院競争が激しくなります。
あぶれた患者は、介護施設(こちらも入所競争は厳しいですが)に入れてもらうか、自宅で家族が面倒を見ることになるでしょう。介護ロボットの実用化が待たれます。
延命治療の廃止も議論されていますし、病院が患者をみとってくれることもなくなるかもしれません。今は病院で最期を迎える人が大勢いますが、それにかかる手間や費用は大変なもの。それに患者の中には「住み慣れた自宅で」という声が増えてきています。在宅みとりは、既定路線になっています。
今まで便利に使い倒してきた病院のハードルが、これからは次第に高くなっていきます。
この流れは25年以降も続くため、皆さんも「どこで」「誰に」みとってもらうか(もらえそうか)はもちろん、民間保険の入院特約や入院保険についての考え方も、変えていく必要がありそうです。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。