生命予後が延びる可能性 がん治療中「ロコモ対策」とは何

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がんの治療というと、手術、抗がん剤、放射線治療が真っ先に頭に浮かぶ。しかし今、重要視されているのが整形外科医が介入した「がんロコモ」治療だ。金沢大学整形外科・土屋弘行教授に聞いた。

 がんの多くは進行すると骨へ転移する。乳がん、前立腺がんは特に多く、骨折、痛み、麻痺、しびれなどを生じ、立つ・歩く・走る・座るといった移動能力を低下させる。これを「がんロコモ」といい、QOL(生活の質)が下がってしまう。

「がん治療そのものも、筋力低下、骨粗しょう症、抗がん剤による末梢神経障害などから移動能力の低下を招き、がんロコモを引き起こします」(土屋教授=以下同)

 ロコモはロコモティブシンドロームの略で、2007年に日本整形外科学会が提唱。要支援・要介護となるリスクを高め、寿命を縮めることがわかっている。がんによるロコモ「がんロコモ」も寿命に関係することが考えられるが、これまではその対策が十分に行われてこなかった。

 なぜなら骨転移を起こすのはステージ4。「末期がんなのだから」という意識が先行し、多少の治療は行われても、「整形外科医が関わって積極的な治療」とは一般的になっていなかった。

「しかし、がんの治療適応は動けるレベルで決まります。だから、がんであっても動けることが重要。運動器の専門家が関わり、装具治療や手術、リハビリテーションや薬物療法を行い、痛みの軽減や機能回復を行う必要があるのです」

 さらに土屋教授によれば、「がんの痛み」とされているものの中に、実はそうでないものもあるという。

 がん患者は中高齢者のため、がん以外にも変形性関節症、腰部脊柱管狭窄症、頚椎症、骨粗しょう症などの運動器疾患を持っていることが珍しくないからだ。

 82歳の肺がんの男性は、PET/CTで骨転移が認められたことからステージ4と診断。年齢とステージから積極的治療はしないとされ、骨転移の症状を抑えるための装具装着の相談で整形外科を受診した。

「ところが画像検査を行うと骨転移ではなく頚椎症。PET/CTは炎症部位に反応するため、骨転移と頚椎症の区別ができなかった。これは整形外科医でないと見分けづらい。この患者さんは、診断がステージ4からステージ2に変わり、治療再検討となりました」

■移動能力の回復が生活を一変させる

 82歳の乳がんの女性は、右大腿部に痛みがあった。

 がんの痛みとして医療用麻薬オピオイドを投与していたが、良くならず、放射線治療も導入することになった。 

 その前に整形外科で調べたところ、痛みの原因は腰部脊柱管狭窄症による神経症状と判明。右大腿部痛の原因となっている神経根に対してブロック注射を行うと痛みは改善し、オピオイドは減量。放射線治療も受けないでよくなった。

 つまりがんロコモ対策とは、①骨転移やがん治療による移動能力の低下②がんの痛みと誤診されやすい、もともと持っている運動器疾患の2つを見逃さず、適切な治療を行うことだ。

 たとえ余命数カ月と診断された患者でも、移動能力を取り戻すことは生活を一変させる。骨転移などで体が痛くて寝返りも打てなかった人が、座って口から食事をできるようになる。自分の足で歩いて好きなところへ行けるようになる。

 がんロコモの認知度はまだ十分ではない。主治医が消極的かも、と感じたら、「がんロコモ」のパンフレットが病院に置いてあればそれを見せるか、がん相談支援室、ソーシャルワーカーに相談するといい。

 骨転移があれば、鎮痛薬、放射線治療、装具治療、手術、薬物治療などが検討される。別の運動器疾患があれば、それに準じた治療が行われる。

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