人生100年時代の保険術

志望者たった1割 外科医不足で将来手術ができなくなる?

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写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 前回お話ししたように、将来は病気になっても今までのように簡単には入院させてもらえそうにありません。とはいえ、「手術代をカバーできることを考えれば、民間の医療保険に加入する意味はある」と考える人もおられるでしょう。

 しかし、その考えも改める必要があります。

 実は「手術が受けられない時代」が近づいているからです。

 20世紀には、後期高齢者に大きな手術を行うなど、めったにありませんでした。ところが今では90代以上の大手術も珍しくなくなってきています。腹腔鏡手術やロボット手術など、技術の進歩が可能にしたのです。

「それならなおのこと医療保険は必要ではないか」と思われるかもしれません。しかし、それは外科手術を受けられる場合に限っての話です。

 実は、手術を担うべき外科医が一向に増えていないのが現状です。毎年約9000人の新人医師が巣立っているのですが、その中で外科を志望するのは1割に満たないといわれています。肉体的にも精神的にもきついうえに、訴訟リスクも高いため、敬遠されているのです。

 今は40、50代の外科医たちが頑張っているおかげで、なんとか持ちこたえています。しかし外科医は体力勝負ですから、あと10年もすれば続々とメスを置くようになります。そのため皆さんが後期高齢者になるころ(20~30年後)には、外科医が半減しているだろうという予測が現実感を増しているのです。

 外科医とともに手術に欠かせないのが麻酔科医です。こちらも外科医以上に不足しており、一向に改善されていません。拘束時間が長いこと、開業が難しい科目であることなどが、若者から嫌われる理由です。

 実は外科医・麻酔科医不足の影響はすでに出始めています。有名病院の多くが、ホームページに「手術待ち期間」を載せているのです。治療方針が決まってから、実際に手術を受けるまでの期間です。

 たとえば国立がん研究センター中央病院の場合、肺がんで3~4週間、食道がんで5週間、大腸がんで6週間などとなっています。
外科医が半減すれば、待ち期間は当然もっと長くなります。

 肺がんは2カ月、大腸がんなら3カ月以上も待たされることになるでしょう。働き方改革で医師の勤務時間に制限がかかれば、待ち期間はさらに長くなるはずです。待っているうちに手遅れになることもありそうです。

 完全自動のロボット手術はまだまだ先の話。個人レベルでの病気の予防と、健康維持の重要性が増しています。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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