男性も知りたい女性の尿トラブル 原因と対策法を医師に聞く

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 昨年、“結婚できない女”といわれてきた阿川佐和子さんが6歳年上の元大学教授と結婚した。60代の結婚に世間がお祝いムードだったせいか、最近は恋愛や結婚を前向きに捉えて堂々とデートする熟年カップルも増えてきたようだ。子供が成長して2人だけの外出を楽しむ夫婦も多い。だからこそ知っておきたいのが中高年女性に身近な「尿漏れ」「頻尿」といった排尿トラブルだ。男性も理解していれば、さりげない気遣いができるはず。「女性医療クリニックLUNA ネクストステージ」(神奈川県横浜市)の理事長で医学博士の関口由紀医師に話を聞いた。

 尿漏れには、くしゃみや咳、運動、笑いなどで、腹部に力が入った瞬間に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」と、強い尿意を感じてトイレに行くが間に合わない「切迫性尿失禁」がある。また1日に9回以上トイレに行き、生活に支障を感じる「頻尿」に悩む女性も多い。こうした排尿にまつわるトラブルの原因として最も多いのが「骨盤底障害」だ。骨盤底とは恥骨から尾骨に至るひし形のプレート状の臓器のこと。筋肉、靱帯、血管、神経などで構成され、内臓を支える、排便や排尿をコントロールする、姿勢を安定させるといった働きをする。

「男性にも骨盤底筋はありますが、女性に多い理由は2つあります。ひとつは妊娠・出産によるダメージ。自然分娩で産んだ女性は100%傷むといわれています。もうひとつは筋肉の衰えです。女性は男性よりも筋肉量が少ない上、40歳を過ぎると加齢とともに全身の筋肉量が減っていくので、骨盤底ももろくなっていく。その頃から尿漏れや頻尿に悩む人が多くなってきます。さらに女性は尿道が4~8センチと、男性の15~20センチより短く、体の構造上どうしても漏らしやすいのです」

 その対策となるのが骨盤底トレーニングだ。背筋を伸ばしてイスに座り、お腹とお尻の力を抜き、息を吐きながら、肛門と尿道、腟を締め、さらに肛門と尿道、腟を持ち上げ、5秒かけて元に戻す。これを朝、昼、夜、各10回ずつ行う。

 食事にも注意したい。カフェインやアルコール、柑橘系飲料、炭酸飲料は、利尿作用や膀胱に直接刺激を与える作用がある。運動負荷のない状態で、しっかりコントロールされた室温で生活している場合は、水分補給も冬1リットル、夏1・5リットル程度を目安とする。飲み過ぎは禁物だ。

 実際は膀胱に尿がたまっていないのに強い尿意を感じる過活動膀胱の症状や、頻尿を緩和させる市販薬もある。薬を飲むことで骨盤底の筋肉を増やす助けをしたり、過剰な尿意を抑えたりする効果がある。

■保険適用が増え選択肢が広がる

 それでも症状が改善しない場合は、泌尿器科を受診する。

「病院では、飲み薬、磁気刺激や電気刺激などの刺激療法、骨盤底筋のリハビリテーション(トレーニング)などの理学療法を行います。これで9割の人は改善します。軽症の場合の自費治療法として、最近流行しているのが『フラクショナル炭酸ガスレーザー』『LBMレーザー』『高周波』といった顔の美容のために使われるエネルギーを腟から入れて腟の粘膜や粘膜下組織を刺激し、陰部の痒みや痛み、頻尿や尿漏れ、性交痛などを治す方法です。腟の締まりも良くなるのでデリケートゾーンのアンチエイジングとしても注目されています」

 重症の腹圧性尿失禁なら手術も選択肢になる。従来はTVT手術、TOT手術が主流だった。ともに腟壁を小さく切開し、ポリプロピレン製のテープを入れて尿道を支える。TVTではテープを下腹部から、TOTでは内ももの付け根から外に出す。しかし、出血量が増えたり、膀胱や恥骨の血管を傷つけることもあった。

「TVT手術の欠点を克服する形のTFS手術は、尿道の下を通したポリプロピレンテープの先端を同素材のクリップで恥骨下の尿生殖隔膜に装着します。合併症リスクが少なく、重症例にも対応できるのがメリットです。静脈麻酔と局所麻酔で実施するため日帰り手術も可能で、手術後の痛みもほぼありません」

 TVT、TOTは保険適用、TFSは、いまのところ自由診療だ。

 過活動膀胱は、膀胱にボトックスを注射し、膀胱の神経に作用して膀胱の収縮を抑制する方法、脊髄の穴に電極を入れて刺激を与え、骨盤底筋の強化や膀胱や尿道の神経を調整する脊髄刺激療法などがある。脊髄刺激療法は、保険適用となっている。膀胱ボトックス注射療法も、数年以内に保険適用になる予定である。

「女性が外出したがらなくなった、テニスなどのスポーツ系の趣味をやめてしまった、夜何度もトイレに起きているようだと思ったら、尿のトラブルを抱えている可能性があります。その場合は『女性は大変だね』と一般論として話題に出すといいかもしれません」

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