患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

起きたら全身不随状態 何が起きたのか全く分からなかった

平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 どうやら低血糖で倒れたらしい、とようやく合点がいった僕は、身をよじってなんとかベッドをおり、かろうじて動く両腕だけを使って廊下を這っていった。そして冷蔵庫に常備してあるキットカットを払い落とし、むさぼり食った。包装を破る力さえ出ないので、歯で噛み切った。

 そうして40分ほどすると、なんとか立って歩けるようになった。

 なぜベッドに横たわっていたのかは謎だ。おそらく食事の準備中に意識障害が起きて、「眠いから少し寝よう」とでも思ったのではないか。すでに注射を打っているのだから、寝てしまっていいはずがないのに。

 記憶が途絶えた時点から、5時間ほどが経過していた。自然に意識が戻ったのは、たぶん、タンパク質や脂肪なども朝食で取っていたおかげだろう。それがゆっくりと分解されることで、血糖値もじわじわと上がってきていたのだ。低血糖は対策が遅れれば死ぬ可能性もある。まかり間違えば、そのままあの世行きだった。

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平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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