Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

米国で胃がんは“過去のがん”…日本では罹患数2位の理由

がん克服の会見をする高杢禎彦さん
がん克服の会見をする高杢禎彦さん(C)日刊ゲンダイ

「過去のがん」といわれたら、どんながんをイメージされるでしょうか。米国なら、胃がんです。残念ながら日本は違い、死亡数3位、罹患数2位と多くの人を苦しめています。

「食道の下半分と胃は全部。脾臓も全部(切除した)」

 先月30日に放送された民放番組で、壮絶な告白をされたのは、元チェッカーズのメンバー・高杢禎彦さん(56)です。40歳のときに胃がん宣告を受け、一時は自殺も考えたといいます。家族の励ましもあり、8時間に及ぶ大手術を乗り越え、無事に回復されたからこそのTV出演でしょう。

 しかし、そのエピソードが話題になるのは、胃がんが広く恐れられていることの証しでもあると思います。家族や同僚、友人など周りに胃がんを経験された人がいればなおさらです。ところが、「過去のがん」と断言した米国では、胃がんで亡くなるのは白血病より少ない。1930年代にトップだった死亡数は、激減。それほど珍しいがんになっているのです。

 日本も恐らくは30~40年後は、米国のように胃がんが「過去のがん」になります。そうなれば、胃がんを恐れる人は少なくなるはずですが、では日米の違いはどこにあるのでしょうか。

 ピロリ菌です。胃がんの発症原因は、98%がピロリ菌感染で、上下水道の普及率が悪いところで高い傾向があります。米国では、19世紀にほぼ民間水道でしたが、日本の上水道普及率は1950年で約3割でした。

 日本も今では上下水道が整備され、冷蔵庫が普及。新鮮で清潔な食べ物を口にするようになったため、20歳以下の感染者は欧米並みの2割に低下していますが、60代以上は8割に上ります。中高年の高いピロリ感染率が日米の差に反映されているのです。

 日本で胃がんは“目の前の敵”だけに、対策が欠かせません。その基本がピロリ菌の除菌です。感染の有無が分からなければ、検査を受けて、感染していれば、できるだけ早いうちに除菌すること。佐賀では、中学生が除菌を受けています。

■ピロリ菌除菌と早期発見を心掛ける

 もうひとつは、ほかの胃がんリスクを一つずつ潰すこと。ピロリ菌感染で胃炎がある人が塩分の高い食事や喫煙、ストレス過多の生活を重ねると、胃がんリスクを助長するのです。

 たとえば、都道府県別で胃がん死亡率ワーストの秋田県は、塩分摂取量が全国1位。男性の喫煙率は全国7位で、胃がんリスクを重ねやすい土地柄です。それでなくても日本食は栄養バランスがよく健康にいいものの、ネックを挙げれば塩分過多になりがちで、海外より多くなり気味だけに、胃がん原因のベースにあるピロリ菌除菌が大切なのです。

 そうやってきちんとリスクを排除し、なおかつ検診をしっかり受ければ、たとえ胃がんでも早期発見できます。胃カメラ検査は、バリウム検査より胃がんの早期発見に有効で被曝の心配もありませんが、粘膜の下で進行する「スキルス性胃がん」についてはバリウム検査が効果的。バリウム検査もおろそかにできません。

 怖いがんとしての胃がん報道に不安を感じる人こそ、ピロリ菌除菌と早期発見を心掛けてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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